メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

凍土の共和国

「凍土の共和国」という北朝鮮の悲惨な状況を伝えた本がある。私はこれを高校卒業して間もない頃に読んだような記憶があったけれど、ネットで調べてみたら、同著が出版されたのは84年となっていた。
どうやら、卒業して8年以上経ち、韓国への語学留学を考えていた86年頃になって読んだようである。おそらく、高校時代から韓国には興味を持っていたと思うが、それは中国への関心に付随していただけかもしれない。中国~西域~モンゴル~トルコというシルクロードのメインストリートから、韓半島は大分外れていた。
86年から87年にかけては、韓国・朝鮮に関する本を相当読んでいたはずだが、今、思い出せるのは、四方田犬彦関川夏央両氏の著作ぐらい。北朝鮮関連では、「凍土の共和国」の他に、もう一冊思い出すが、書名を覚えていない。数人の著者による紀行集だった。
北朝鮮政府に招待されて、共に同地を訪れた人たちが、帰国して直ぐに書いたのではないかと思う。その中で、明治大学の学長という人物の紀行がとても面白かった。
多分、歓待を受けていながら悪くは書けないという制約を感じていたのだろう。徹頭徹尾、北朝鮮を褒めているけれど、その対象は余り好ましくない事実ばかりで、何だか“褒め殺し”であるとしか思えない内容だった。
例えば、平壌有数の建築物を訪れて、高さも揃っていない歪な階段に気がつくと、「この階段は、機械など使わず、労働者たちが、その血と汗で作り上げたのだろう」といったような調子で褒め上げ、“感動”してみせる。
北朝鮮政府が手配したベンツに乗って、平壌の街を走れば、子供たちがベンツに向かって最敬礼すると記しながら、「子供たちは、ベンツに乗っているのが地位の高い人であると知っているから最敬礼で迎える。目上の人に対する礼儀を忘れた日本の若者に見せてやりたい」というような感じで、これも称賛の対象にしてしまう。
あれほど巧妙な“称賛”には、なかなかお目にかかれないような気がする。もの凄く嫌味な文章でもなかった。歓待されたのに悪く書いて方々に迷惑は掛けたくないし、かといって嘘も書きたくないと苦心されたのではないかと思う。
しかし、その紀行集で、面白くて印象に残ったのは、これだけだった。後は余りにも嫌らしくて覚えているのが一つある。
本当に北朝鮮を称賛していると思われる左翼の人が書いた文章で、のっけから「あの成田空港は絶対に使いたくないので、一行とは別のルートで向かった」などと得意そうに書き出している。
成田の用地買収には不正があったとか何とか言いたいのなら、新幹線の建設にもあっただろうし、これに電力を供給している原発もかなり怪しいに違いない。成田から飛ぶどころか、成田まで移動するのも不都合がありそうだ。日常生活も送れやしないだろう。
別に腹を立てる必要もないが、学長さんの“気配り”に比べて、なんと傲慢な態度なのかと思った。こういう人たちは、「あちらを立てれば、こちらが立たず」なんて悩んだりはしないのかもしれない。

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