メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

現場が原点

クズルック村の工場は、「現場が原点」をモットーにしていた。日本の本社では、大卒の新入社員も一定期間現場で働かされるらしい。
一度、クズルック村の工場に、日本の本社から副会長という方が視察に訪れたことがある。白髪の、もう70歳近くに見える方だったと記憶している。
その方が工場内を歩きながら、ある女子工員の作業を見て立ち止まり、作業手順の誤りを指摘したばかりか、自ら正しい作業の手本を見せたのには驚いた。
手順の誤りと言っても、流れ作業の中で、“手をどちらの方から入れて電線を結びつけたら良いのか?”という類の問題だった。それを一瞬で見抜いた眼力もさることながら、手本の作業も正確で実に手際が良かった。そして、「ほら、こうやった方が早いし楽でしょ」と事も無げに仰った。
この企業は、そうした最適の手順を積み重ねることによって、作業の効率化を図り、その分野で世界シェア・トップクラスを維持している。
ところが、クズルック村の工場で働いていたトルコ人エンジニアの一人は、そんな効率化には全く興味が無かったらしい。「僕は、日本の企業というから、最先端のテクノロジーを学べるかと思っていたのに失望したよ。これじゃあ手織り絨毯の作業と変わらないじゃないか・・・」と落胆していた。
今、トルコでは、「欧米の下請け工場の現状から抜け出て、テクノロジーを生み出す国にならなければならない」と盛んに叫ばれていて、教育改革もその一環なんだろうけれど、地道な作業の効率化を侮るようでは、それも難しいのではないかと思う。
クズルック村の工場では、本社の相当な地位にある方と工場長、製造部長、そしてこの私が、社宅の一室で車座になって飲んだこともある。その時、本社の方は、「我々は現場の人たちに比べたら、寄生虫みたいなものですから・・・」というように謙遜した。ちょっと前後の会話を覚えていないけれど、この部分はとても印象に残っている。
多分、財務関連の仕事をされていた方で、大変なエリートだったと思う。工場長も製造部長も私も、皆、高卒だったから、言い方によっては、酷く嫌味に聴こえてもおかしくないが、その方の真摯な語り口がそう感じさせなかった。
現場の小さな積み重ねを侮ることなく、働く人たちの意見を聞いて、そのニーズにも留意する。だから、世界でトップクラスになれるのだろう。

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