メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

アンチョビ

先日のこと、ウスキュダルの市場でアンチョビ(塩漬け鰯)を売っていたので、100gほど買い求め、その晩、我が家を訪ねて来た友人と赤ワインを飲みながら味わってみました。

アンチョビにしてはちょっと大きかったけれど、その分噛み応えもあって、2YTL(約160円)という値段の割には上出来。赤ワインも近所の食料品店で購入した安物ですが、こちらもなかなか結構だったように思います。

ところで、アンチョビに関しては、ちょっとした思い出があって、あれは92年頃のこと。

イスタンブールの大きなスーパーで買い物をしていると、アンチョビらしきものの瓶詰めが目に留まりました。なかなか洒落たデザインのラベルには、イタリア語だかスペイン語のようなものが記されていて、トルコ語の説明は一切ありません。

何であるのか良く解らないまま、ものは試しと、一つ買って来て、その日の内に封を開けて見たところ、瞬間、辺りには異様な臭いが立ち込めます。

それは“腐敗臭”そのものだったけれど、世の中には、腐敗と発酵の間で際どい勝負をするような食品もあり、例えば、北欧の何とかいう“塩漬けニシンの缶詰”は、屋外で開けなければならないほどの凄まじい悪臭を発するのだとか。

その瓶詰めも、そういった食品の一つであるかもしれないし、なにしろラベルには何が書かれているのかさっぱり解らない状態でした。

それで、日本の“くさや”が大好物である私は、「臭くても食べてみれば美味しいかもしれない」と思い、瓶の中の鰯を一つ箸でつまんで口に入れ、ゆっくり味わってみると、それは塩辛いばかりで、全く味らしいものがなく、噛めば噛むほど臭さと不快感が増してくるだけです。

それをグッと飲み込み、よせば良いのに、なんとなくもったいないような気がして、もう一つ食べてみたものの結果は同じ。

「これは腐っているに違いない」と思ったけれど、購入したスーパーへ持って行ったところで、それほど気分の良い対応をしてくれるはずもないから、残りをそのままゴミ箱に放り込んでお終いにしました。

それから、数年の後、日本に帰国していた私は、ある日、柄にもなく青山の紀伊国屋スーパーで買い物をしていたら、並んでいる商品の中にあの瓶詰めと全く同じものを発見したのです。

今度はさすがに日本語の案内書きが貼られていて、イタリア産のアンチョビであることが記されています。

好奇心から、これを購入して味わってみたところ、嫌な臭いも無く、噛めば噛むほど美味しい、実に見事な一品でした。

これにより、イスタンブールで買った瓶詰めは、要するに“腐っていた”ことがはっきりしたわけですが、あれを食べた後、別に腹をこわしたりはしなかったから、人間、少々傷んだものを食べても大丈夫であることも解りました。