メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ラケルダ

ラケルダという“キツネガツオの塩漬け”。マグロや鯖が使われたりもするそうですが、“ラケルダ”というのは、本来、キツネガツオを意味するギリシャ語のようです(確認したわけじゃありません。ちょっと眉唾)。

アンチョビを買い求めた食料品店の隣にある魚屋で売ってました。スーパーや食料品店では、切り身にしてオリーブオイルと一緒に瓶詰めされたものが良く売られています。

私はイスタンブールで、この“瓶詰めラケルダ”の腐りかけにも遭遇しました。

“完全に腐ったアンチョビ”ほどには匂わなかったものの、ラケルダを食べたことがないという友人のところで開けたものだから、彼らの驚きようはありません。

「うわっ、臭い! こんなものどうやって食べるの?」。しかし、その時の私は、既に“腐ったアンチョビ”について充分承知していたので、直ぐに蓋を閉め、「御免、こりゃ腐っているよ。今度はちゃんとしたのを持って来るからね」と謝ったけれど、「いや、もういいよ」と言われてしまいました。

その“瓶詰めラケルダ”は、何度も買い物をして良く知っている店で求めたものであり、そこの店主はなかなか感じの良い人だったから、翌日、返品に行くと、店主は「どうもすみません」と非常に恐縮した様子。

私が「差額は払いますから、何か他の商品と替えてもらえませんか?」と訊けば、「どうぞ、どうぞ何でも御覧になって下さい」と並べられた品々を示します。

言われるままに、一通り見てから、如何にも高級そうなキャビアの缶詰を手に取ると、店主は「そ、それはキャビアですね」と説明するのですが、その声は心なしか震えているようでした。

キャビアの値段を見たら、これと替えるには差額どころか倍々額以上払わなければなりません。

それで、キャビアの缶詰は元の場所に戻し、今度は近くにあった“イタリア産のサラミ”に目をやれば、これが実に美味そうだったので、倍近い値段であったにも関わらず、意を決して「これにしましょう」と言い、差額を尋ねたところ、店主はサラミを袋に入れて差し出しながら、きっぱりとした口調で「ご迷惑を掛けたのに差額は頂けません。どうぞこのままお持ち帰り下さい」。

多分、私が何を選ぼうと最初から差額を受け取るつもりはなかったのでしょう。

キャビアにしておけば良かった」なんてせこい考えがよぎったりもしたけれど、その“イタリア産サラミ”を食べて見たら、これが唸るほど美味く、思わず“腐りかけたラケルダ”に感謝したくなりました。