メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコの人情もいずれはすたれるのか?

トルコでは、イスタンブールのような大都会にも、まだ結構人情味が残っている。例えば、私が住んでいたイエニドアンの街などは、暖かい人情が感じられて、とても暮らしやすかった。
しかし、これから新しいマンションがどんどん建って、街の人口が急激に増えたら、どうなってしまうだろう? いずれは「隣の人は何する人ぞ」といった状態になり、ご近所付き合いもすたれていくかもしれない。
今のところ、イスタンブールでは、既に人口が密集している中心部においても、「社会の信頼と絆」を感じさせる光景を目にすることが出来るけれど、徐々に、見ず知らずの他人との関わりを避けたがる傾向は増して行くような気もする。

帰国前日の4月20日、イスタンブールで最もモダンな区域の一つであるレヴェントの辺りを通る地下鉄に乗っていたところ、車内の中ほどに立っている大きな黒人の男が、両側の座席に座っている黒人たちと大きな声で何やら自分たちの言葉で話していた。
それだけでも、充分に迷惑な雰囲気だったが、何処かの駅で近くの席が空くと、その大きな黒人は素早くそこへ座り、隣の小柄な中年トルコ人女性を挟んで、もう一つ先に座っている、これまた大きな黒人の男と体を突っつき合ったりしながら、大きな声で話し続けようとするのである。
間に挟まれた小柄な中年女性は堪ったものじゃないだろう。品の良い身なりをした女性の表情には、不快感というより緊張が感じられた。
それで、私が歩み寄って、黒人の膝を叩き、『立って、女性と席を入れ替えたらどうか?』と片言の英語とジェスチャーで伝えようとしたものの、黒人は「ホワイ?」などと笑って応じる様子も見せない。
さらに、向かいの座席に座っているトルコ人男性が、トルコ語で「関わり合わない方が良い」なんて言い出したので、私はすっかり当てがはずれてしまった。イエニドアン辺りだったら、周囲の男たちも私に加勢して、一気に問題が解決されてしまうはずだったのである。
それから、黒人が「お前は何が言いたいんだ?」とトルコ語で呟いたため、『これで話が伝えやすくなった』と今度はトルコ語でまくしたてたら、もう一方の隣に座っていた、やはり品の良い身なりのトルコ人女性が、「なによこれ、コメディーじゃないの?」と笑った。
その女性は、それだけ言うと、私を一瞥しようともせず、そのまま無関心な態度を続けた。『危ない黒人を刺激しようとする間抜けな東洋人』とでも思ったのだろうか?
結局、黒人たちは、彼らが降りる次の駅まで、席を立とうとしなかった。黒人たちが降りて行って、車内には安堵の空気が広がったようにも思えたが、皆、無関心を装い、もちろん私に何か声を掛ける人もいなかった。
挟まれていた女性は、私と同じ駅で降りたので、『貴方へ余計に不愉快な思いをさせてしまった』と謝罪すべきかどうか考えたけれど、女性が終始、私の方を見ないように努めていたのは解っていたから、何も言わずに女性を追い越して、足早に遠ざかった。
何だか本当に間抜けな東洋人のコメディーじゃないかと情けなくなった。