メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコの社会の思想的な対立?

トルコでは「イスラム主義」と「政教分離主義」の思想対立が長い間取り沙汰されてきた。私も双方の主張を聞きながら対立の激化を恐れていたけれど、最近は、それよりも外交政策にまつわる「親欧米派」と「ユーラシア派(反米)」の対立が鮮明になってきたような気がする。

この外交政策はもちろんだが、思想対立も一般の人々には余り関係がなかったかもしれない。以下の駄文にも記したように、トルコでこの30年来に起きた最も大きな変化は「産業化」とそれに伴う「都市化」であり、かつて社会の一部に見られた「イスラム的・保守的なエリア」と「政教分離主義的なエリア」といった区分も、その過程の中で消滅しつつあるかのように見える。

保守的な家族の娘が、政教分離主義的な家族の青年と知り合って結婚したりするケースも増えた。彼らの家族は、「保守的な」とか「政教分離主義的な」といった枠に当て嵌まらない。双方の家族の間で、たまに論争が起きたりするかもしれないが、それは「対立」と言えるようなものじゃないだろう。

エルドアンは私たちの家族を引き裂いた」と難じた女性の双方の家族も普段は仲良くやっている。しかし、私のような異分子が居合わせたりすると、普段は見られない気まずい状況が生じたりもした。これは「角さんとエルドアン首相」という以下の駄文で紹介した家族の話である。

それから3年半ほど過ぎた頃、保守的な家族の長男に、彼らのことを「無知な民衆」呼ばわりした姉の義父について訊いてみたところ、あの場に居合わせていた彼は、3年半前の出来事を良く覚えていて、笑いながら「あれは伯父さんの口癖なんだよ。初めて会った人には必ず話してみる。ところが、途中で『無知な民衆』の存在に気がついたから、慌てて帰ることにしたんだよ」と説明してくれた。

トルコの社会は、韓国や日本と比べて驚くほど多様性があるように思えるけれど、不思議なくらい巧くまとまっている。民族問題などもあくまでも政治的なもので、人々の間に「トルコ人クルド人」といった対立が見られるわけじゃない。双方の間の婚姻も多く、厳密には分けることすら難しいだろう。

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