メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トランプ大統領とエルドアン大統領は似た者同士?

米国の大統領選挙もいよいよ4ヶ月後に迫った。一部の日本の識者によれば、米国の主要メディアによる否定的な報道にも拘わらず、トランプ氏は相変わらず優勢であるという。

トルコでもハサン・バスリ・ヤルチュン氏といったエルドアン政権寄りのジャーナリストは、トランプ氏が依然として有利と見ているようだ。ヤルチュン氏は、反トランプのグローバル資本が主要メディアを動かしていると論じていた。

私に米国の状況など解る由もないが、そういった分析等を聞いていると、なんだかエルドアン・AKP政権初期のトルコの状況を思い出してしまう。当時、トルコの主要メディアはエルドアン氏に否定的な報道を繰り返していたものの、エルドアン氏とAKPは選挙に勝ち続けたからである。情報の媒体が多様化して、相対的に既存の主要メディアは往時の勢力を失ったという論調も見られた。

いずれにせよ、トランプ氏とエルドアン氏は、各々を取り巻く状況と当人たちがお互いに良く似ているのではないかと指摘されたりしている。また、エルドアン氏自身も述べているように、お互い気が合うのは事実らしい。

トランプ氏とエルドアン氏に共通している点として、国家の中枢からではなく、外部から登り詰めて来たアウトサイダー的な所も挙げられているけれど、これはどうなんだろうか?

政治家としての経歴もなかったトランプ氏はともかく、エルドアン氏は大学在学中から政治運動に携わって来たと言われている。しかし、それが国家から反動勢力と見做されていたイスラム主義によるものだったため、アウトサイダーと見られていたのだろう。

ところが、最近、その辺りも何だか怪しくなって来たように思われてならない。元軍人のジャーナリスト、エロル・ミュテルジムレル氏が暴露したところによれば、1999年の段階で、既にトゥールル・テュルケシュ氏らはエルドアン氏を次期首相として担ぎ出そうとしていたらしい。 トゥールル・テュルケシュ氏は、1960年の軍事クーデターの首謀者の一人で、その後MHPの党首となったアルパスラン・テュルケシュ大佐の子息であり、国家の中枢に近かった人物と言える。

1999年10月、ミュテルジムレル氏は、ある会合に呼ばれて、そこで「次期首相エルドアン」のアドバイザーを打診されたという。ミュテルジムレル氏によると、その会合場所へトゥールル・テュルケシュ氏は米国領事館員と共に領事館の車両で乗り付けたそうだ。「次期首相エルドアンについて、米国の了解は既に取り付けてある」ということだったのかもしれない。

一方、ギュレン教団の不正を追及しているジャーナリストのネディム・シェネル氏は、「・・・(米国の支援によりAKP政権を成立させた)ギュレン教団は既に国家を手中にできる勢力となっていたのだから、“染み込む”という表現は正しくない。染み込んでいたのはエルドアンの方だ・・」などと述べていた。

ギュレン教団は、2002年にAKP政権を成立させた際、反米的なエルバカン師の愛弟子だったエルドアン氏のいないAKPを構想していたが、当時、エルドアン氏は「宗教を扇動した罪」で服役して被選挙権を失っていたため、これはほぼ実現していた。ところが、ギュレン教団の勢力拡大に不安を感じたCHPのバイカル党首(当時)が、エルドアン氏に被選挙権が与えられるように運動した、という説もある。これが正しければ、紛れ込んだのは正しくエルドアン氏の方だった・・・。

しかし、そうなるとエルドアン氏は、国家の中枢にいた反米的な国家主義者(バイカル氏)からも、対米協調派の民族主義者(テュルケシュ氏)からも前以て承認を得ていたということになってしまう。その後、バイカル氏とエルドアン氏が議会で罵り合いを続けていたのは、米国を欺くカムフラージュだったのだろうか?

2003年、イラク戦争におけるトルコの対米協力が反故にされた裏には、バイカル氏とエルドアン氏の密談があったのではないかと言われている。これに気がついた米国の怒りは大きかったに違いない。バイカル氏は、2009年にスキャンダルで党首の座を追われ、エルドアン氏も「独裁者云々」と執拗な誹謗中傷攻撃を受け続けた。

アウトサイダーだったトランプ氏は、この辺りの事情に絡んでいないため、トルコやエルドアン氏に対して悪感情を持たずに済んでいるという。しかし、このトランプ氏がアウトサイダーだったというのも何だか怪しいような気がする。

トランプ政権が発足した当初、マイケル・フリンという元米軍高官がいた。フリン氏はいくらも経たない内に、ロシア疑惑で政権から退いてしまったが、トランプ氏とフリン氏は、いつどのように関係を築いていたのだろう?

最近、このフリン氏に対する訴訟が取り下げられたため、トルコでは話題になっている。トランプ氏は「中東からの撤退」を公約に掲げていたので、トルコにはこれに期待する向きが当初よりあったけれど、そういった政策の立案者はフリン氏ではないかと思われているようだ。フリン氏がギュレン教団を好ましく思っていないという説もある。それはともかく、「中東からの撤退」は米国の利益にも適っているのでないだろうか?

トルコは中東における自国の権益も主張するに違いないが、米国の既存の権益を踏みにじるつもりなどないと思う。その力もないはずだ。現状、世界に米国の権益を脅かす勢力があるとすれば、それは中国に他ならないだろう。

トランプ政権が、対中国に集中しようとしているのは正しい選択であるような気がする。そのためには、ロシアとの関係修復も当然の成り行きであり、その正当性を論じるトルコの識者もいる。

1991年にソビエトが崩壊して以来、世界は大きく変わりつつある。トランプ氏やエルドアン氏のように、以前なら常識の範疇に収まらないと思われた人物が政権に就いたりするのも過渡期ならではの現象であるかもしれない。