メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

金鍾泌氏と『千の風になって』

エルドアン首相には、これまでの業績が正当に評価されていないという苛立ちがあるのではないかと指摘する識者がいる。
何か新しいことを始めた人たちは、大概の場合、直ぐには正当な評価を得られないのかもしれない。オザル大統領もそうだった。
韓国では、“漢江の奇跡”を実現させた朴大統領や金鍾泌首相が、長い間批判され続けている。
韓国“中央日報”の日本語版に、以下のような記事が出ていた。日付を見ると、2011年5月16日となっていて、一昨年の記事であるようだ。

 とても興味深い記事だと思った。特に、(4)の最後の部分。金鍾泌氏は、記者の質問に答えて、以下のように語っている。
--総理には風雲児という言葉が付いているが。 
「風雲児とは…。風雲は風と雲という意味だが。日本では『千の風になって』という歌が流行したが、こういう一節がある。私のお墓の前で泣かないでください/そこに私はいません眠ってなんかいません/千の風になってあの大きな空を吹きわたっています…。人生であれ革命であれ頑張って生きて、人にすべて渡して空になって行ってしまうのだ」
千の風になって』という歌は、2006年頃に流行ったようだが、私は良く知らない。題名を見て、有名なアニメーションの主題歌かと思ってしまったくらいだ。金鍾泌氏は、こんな歌まで良く知っているものだと、まずこの辺が面白く感じられた。もちろん、話の内容も金鍾泌氏の凄まじい生き様が語られていて迫力がある。
韓国語の原文では、どうなっているのか気になって探してみた。
千の風になって』という歌について語る部分、原文を読むとちょっと違う。金鍾泌氏は、自分の記憶の中にある歌詞のイメージで語ったようだが、日本語訳した人が、『千の風になって』の正しい歌詞をそのまま記してしまったらしい。
原文通りに訳せば、以下のようになる。歌詞に続く部分も少し変えてみた。
「・・・こういう一節がある。死んだら墓碑を立てないでくれ/墓碑から私の魂は抜け出た/私は千の霊魂となって宇宙を飛び回るだけだ。人生にせよ革命にせよ、一生懸命に生き、他人に全てを渡し、抜け殻となって去るのだ」
しかし、金鍾泌氏は、簡単に“抜け殻”になって去るつもりはないようだ。記事にも、脳梗塞で倒れた後、懸命のリハビリで回復したとあるが、この記事が書かれた一昨年の段階では、まだ完全な回復には至ってなかっただろう。
つい2ヶ月ぐらい前のニュースで、金鍾泌氏が、脳梗塞で倒れて以来、4年半ぶりに公式の場に姿を現し、日本の大使と懇談したと報道されていた。その時点でも、まだリハビリを継続していることが伝えられている。87歳というのに、正しく不屈の闘志で、感嘆に堪えない。偉い人は何処までも偉いのかと、ため息が出てしまう。
もちろん、エルドアン首相も、そう簡単に、抜け殻となって去るわけには行かないだろう。作家・エコノミストのアレヴ・アラトゥル氏は、「未だ隠居する歳じゃない。大統領になって、もっと働いてもらわなければ・・・」と語っていた。


日韓基本条約 7/7