メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ウクライナとロシア/近代国民国家の成り立ち

ロシアのウクライナ侵攻後、ネットを徘徊しながら読んだ記事の中に、「ウクライナの人たちは、キエフ大公国以来のロシアの歴史と文化の源流は自分たちにあるという思いがあるため、モスクワに対して蔑みと妬みが混ざり合った複雑な心情を抱いて来た」というような話があった。

これに私は、『関西の人たちが東京に対して抱く気持ちと似ているのでは?』なんて思ってしまったけれど、果たしてどうなのだろう?

しかし、例えば、日本でも外国の干渉により、国が分割されて関西が独立したり、関東に併合されたりする歴史が繰り返されていたら、ウクライナ・ロシアと同じような対立が生じていたかもしれない。

関西の人たちは「関西語」による読み書きに拘り、関東人が「日本語を使ってくれ」と言えば、「なんで江戸の田舎言葉を使わななりまへんのや?」などと言い返す。(滅茶苦茶な関西語ですみません)

現在、日本で関西の言葉は、他の「方言」と比べたら、非常に良く使われ維持されているけれど、それでも年々標準語の影響が強まってきているのではないだろうか? それも使われているのは会話に限られていて、文章は通常標準語で記すことになっているし、学校教育も標準語で行われてきた。

細雪」を読んでも、関西言葉になっているのは会話の部分だけであり、文中の手紙でさえ標準語で記されている。

日本は明治維新以降、「標準語」を公用語に定めて学校教育で普及させ、各地の「方言」は廃れて行った。そもそも、この「方言」という言い方が標準語中心思想の表れであるような気もする。

ロシア語もウクライナ語も解さない私は良く解らないが、言語学的に双方の言葉の違いは、日本の一部の「方言」と標準語の違いより少ないそうである。

私たちは「方言」という言い方にごまかされているものの、日本の各地の言葉は、独立の言語に分類しても良いくらい異なっている例が少なくないらしい。

私はアゼルバイジャンの人がトルコ語系のアゼリー語で会話しているのを聞いて所々何を話しているのか解ったりするけれど、東北の秋田県青森県のお年寄りたちの会話が全く解らなかったりする。それどころか少し聴いただけでは、日本語の方言であるかどうかも判然としない場合がある。

沖縄語など初めて聞いた人は『何処の外国語だろう?』と思ってしまうに違いない。ところが、トルコ語系の言葉であれば、ウズベク語でも直ぐにトルコ語系の言葉であることぐらいは解る。

1991年、イズミル学生寮で同部屋だったネジップという学生はブルガリア出身のトルコ人だった。ある日、ネジップはラジオのチャンネルを回している内に聴こえてきた放送に耳を傾けながら、「これはいったい何語なんだ?」と唸った。

ブルガリア語に良く似ていて、何を言っているのか殆ど聞き取れるのに、ブルガリア語ではないと言う。

「こんな言語初めて聞いたよ」と驚いていたが、暫く考えてから「多分、マケドニア語じゃないかと思う。ブルガリア語とマケドニア語は良く似ているらしい・・」と分析していた。

これは我々日本人が想像もできない体験だろう。私たちは全く聞き取れない言語まで「日本語の方言」と教えられてきたものの、日本語に似ていて殆ど聞き取れる外国語など何処にも存在しないからだ。

しかし、こうして「標準語」を定め、学校教育で普及させて「日本語」という「国の言葉・国語」を作り上げようとしたのは日本だけじゃなかったはずである。

トルコは共和国になってからトルコ語公用語として学校教育による普及を図った。ロシアはロシア帝国の時代からロシア語の普及を図っていたそうである。

フランスにもブルトン語等々フランス語とは異なる系統の言語があったが、フランス語に統一され今や話者も殆ど残っていないらしい。

おそらく、「近代的な国民国家」と言われる全ての国が同様の過程を経てきたに違い。それが出来なかった国は、強国の干渉を受けて分割され、その後も干渉を受け続けているのではないかと思う。

そのため、オスマン帝国の末期、クルド語(あるいはザザ語)を母語としていたズィヤ・ギョカルプは「トルコ民族主義」を掲げて外国の干渉を退け、独立を守ろうとした。

アブドゥッラ・ジェヴデトのように「全てのムスリムトルコ語を話して近代化を図るべきだ」と主張したクルド人の知識人もいたという。

ロシアでは、作家のゴーゴリウクライナ語を母語としていながらロシア語による著作を提唱していたそうだ。

果たして、ウクライナの今後はどうなって行くのだろうか?

*2016年1月、イスタンブールで訪れたロシア正教の教会。会衆にはウクライナの人たちも少なくなかった。

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