メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

リスク対応

昨日は、ちょっと用事があって、ヨーロッパ側の中心地ベイオウルに出かけたけれど、イスティックラル通りは相変わらずの賑わいだった。タクシム広場でも外国人の観光客らが集まって写真を撮ったりしていた。
邦人観光客の姿は殆ど見られなくなってしまったが、中国や韓国からは未だ来ているようなのでホッとした。
もちろん、テロのリスクはある。しかし、例えば、ある死を怖れない野心的な報道写真家が、スクープをものにしてやろうとイスタンブールにやって来たとして、彼がテロの現場に遭遇できる“チャンス”はどれほどあるだろうか?
「残念」ながら、それは宝くじを当てるような確率じゃないかと思う。
では、交通事故のリスクは、どれくらいなのかと思って調べてみたところ、トルコ全域の2014年度のデータによれば、この年の死亡者は3524人だった。
日本でも毎年4000人ぐらい犠牲になっているはずだから、意外に少ないような気がした。もっとも人口比で見れば、やはりかなり多いと言えるけれど、数字は2007年の5007人から少しずつ減少してきている。
確かに、「長距離バスが転覆、死亡20人!」といった衝撃的な事故のニュースは随分少なくなった。私が初めてトルコで暮らした91~94年の頃は、粗悪な再生タイヤを使っているバスで長距離を運行、高速運転中にタイヤが破裂して大惨事というケースが結構あった。
当時、私も長距離バスに乗る前、そのバスのツルツルのタイヤを見てしまい、『見なけりゃ良かった』と嫌な気分になったことがある。
さて、3カ月ぐらい前だったと思うが、カドゥキョイのアイルルックチェシメスィ駅から、イエニドアン行きの市バスに乗って、路程を半分以上来た辺りだった。
ほぼ満員の2両連結のバスの一番後ろの方に立っていたら、床下から何か擦れるような異音が聞こえ始めた。おそらく、両側に2本ずつ付いているタイヤの一つがパンクしたらしい。トラックやダンプをやっていた経験からすると、一つだけなら当面運行に差支えはない。
隣に立っていた労働者風の2人の男も直ぐに気が付いたようだ。小さな声でボソボソ話し始めた。
「パンクしているな。内側じゃないか? 外側ならクラクション鳴らして教える奴がいるから・・」
「バスの運転手、気が付いているかな?」
「気が付いていりゃ、停めて様子見に行くだろう」
それから、お互いに『黙っていよう』と合図して、2人は口を閉ざしてしまった。運転手がパンクに気が付いたら、「このバスは運行できなくなりました。後続のバスに乗って下さい」という処置を取るかもしれないからだ。
それで、後続のバスも満員だったら、いったい何時に帰り着けるのか解ったものではない。私も彼らと同意見だった。
2両連結のバスでは、最後尾の異音まで運転手の耳に届かないのだろう。バスはその後も無事に走り続けたけれど、仮にもう1本のタイヤがパンクするようなことになれば、バスはバランスを崩して大事故に繋がる可能性もある。バスがスピードを出す度にちょっと冷や冷やした。
日本で自分がトラックやダンプを運転していた頃も、大型の場合、なにしろ後方に計8本のタイヤが付いていたから、その内の一本がパンクしたとしても、スピードを抑えるぐらいで、タイヤ脱着の設備があるところまで、そのまま走らせていた。
まあ、両側2本ずつしか付いていないバスは、もっとリスクが高いだろうけれど、後続のバスを待つことを考えたら、『黙っていよう』は充分理解できる気持ちじゃないかと思う。