メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

文化人の無理解とクルクルパーの運転手

冬になり、コロナの陽性者がまた増加しているため、「自粛」や「三密回避」が叫ばれている。飲食店などは堪ったものじゃないと思う。特に低料金の店が大変らしい。席を詰めてたくさんのお客さんに入ってもらわないと利益が上がらない店もあるだろう。

ところが、高額の店は、もともとゆったりとした空間で「おもてなし」してきたのでそれほど困っていないという。そういったお店ばかり利用していると思われる方が「飲食店の苦境」など全く理解していないような発言を躊躇わないことにも驚かされる。そのぐらいなら、普段から「貧乏人は麦を喰え」とでも言ってくれたほうがよっぽど有難い。

ヒステリックに「消毒」が叫ばれる中で「3K職」への風当たりも強くなりそうだけれど、心優しい文化人の方々から「心配」の声が余り出て来ないのは残念だ。既に、配達のトラック運転手さんなどが「ウイルスを運んでいる」とか言われているらしい。

昔、ある人に長距離トラックを少しやった経験を話していたら、「えっ! トラックって夜走っているの?」と驚かれたことがある。どちらかと言えば「左」の方で、社会の様々な問題を論じておきながら、トラックの運転手が「どうやって仕事しているのか?」などには殆ど興味もなかったのだろう。「トラックの運転手は、何故、昼間に良く寝ているのか?」と不審に思っていたそうだ。

私も昼間にトラックを路上に止めて仮眠取ったりしていたけれど、そういうトラックを「昼間からこんな所に止めて・・・」と白い目で見ていたのかもしれない。

日本では「長距離トラックの事情」を行政も良く把握していないのではないだろうか? とにかくスピードを制限させることに躍起なようである。

一方、欧州では一日に8時間以上運転させないようデジタルタコグラフを装着させて厳しく管理しているという。事故の最も大きな要因は「過重労働・寝不足」にあるという理解が得られているに違いない。その代わりアウトバーンなどではいくらでもスピードが出せるようになっているそうだ。

5時間の睡眠を取ってから高速を140kmでぶっ飛ばすトラックと、3時間の仮眠だけで100km走行するトラックを比べたら、前者のほうが遥かに安全だと思う。トラックの「居眠り運転」が大騒ぎになるけれど、あれは非常な過労状態で「気を失ってしまう」のだと理解してもらいたい。

25年ほど前、長距離トラックで深夜の東名高速を走行していると、前方を走るトラックが次々とスピードを落とし始めたので『事故でもあったのか?』と思っていると、どうやら追い越し車線を80kmぐらいでのんびり走っている洒落た乗用車が1台あるため、そこでつかえてしまっているらしい。

その乗用車を走行車線から追い越すのは安全上問題があるので、どのトラックも一応クラクションを鳴らしたりして、乗用車が走行車線のほうへ戻るように促すものの、直に諦めて走行車線から追い越して行く。

乗用車は品のあるイタリアかフランス辺りの車であるように思えた。私は走行車線から追い越す前に、『いったいどんな人が運転しているのか?』と気になり、少し車間距離を詰めてライトをハイビームにして見た。そもそも、深夜の東名を走っているのはトラックばかりで、そんな車は非常に珍しかったのである。

ハイビームで車内が照らし出されると、運転席に洒落た帽子を被った老人、助手席に奥様と思われる老婦人が座っているのが見える。いずれも品の良い身なりで「文化人の御夫婦」といった雰囲気だったが、御主人の方は照らし出されたのを承知して、右手をハンドルから放すと「クルクルパー」の手付きをして見せた。

私は思わず失笑しながら走行車線に出てゆっくり追い越そうとしたけれど、ちょうどその時、後方からサイレンの音と共にパトカーが接近してくるのが解った。

パトカーは乗用車の直ぐ後ろまで来ると、そのナンバーを読み上げてから「ここは追い越し車線です。速やかに走行車線へ戻って下さい」と繰り返した。

乗用車の文化人さんは、危険なトラックを取り締まってくれるはずのパトカーから注意されて、ちょっと慌てていたようだが、仕方なく走行車線に戻って行った。

でも、あの文化人さんのトラック運転手に対する偏見は、多分、その後も全く変わらなかったのではないかと思う。ハイビームで照らして来たクルクルパーの運転手に対しても・・・。

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