メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ボリスの店

以前、ベシクタシュに、パンド・シェスタコフというブルガリア正教徒の老人が営む乳製品の店があった。
2013年の夏は未だやっていたけれど、その後いつ頃店仕舞いしたのだろう、昨年の夏、通りかかった時は既に閉店していた。
この店はなかなか由緒があり、なんでも、シェスタコフ氏の父ソテリ・エフェンディは、オスマン帝国の時代、ドルマバフチェ宮殿に自家製の乳製品を一日も欠かすことなく納めていたそうだ。そんな謂れのためか、ここの乳製品、特にカイマク(濃厚な生クリーム)は非常に美味しいと評判だった。
24年ほど前、イズミルの大学の先生に伺った話によれば、オスマン帝国の宮廷でヨーグルトなどを作っていたのは、殆どブルガリア人だったという。当時から、ブルガリアのヨーグルトには定評があったらしい。
だから、「ヨーグルト」は歴としたトルコ語なのに、日本で「ブルガリア・ヨーグルト」として有名になっていても、それほど不愉快には思っていらっしゃらなかったようである。
さて、先日の朝、イエニカブ駅から友人のホテルまで歩いて行く途中、魚料理のレストランが立ち並ぶクムカプの一角に、「ボリスの店」という看板を見つけて覗いて見ると、カイマクやチーズを売る乳製品の店だった。
「ボリス」というのは、どう考えてもトルコ人の名前らしくない。早速、中へ入って、カイマクと蜂蜜の朝食を食べながら、いろいろお話を伺ったところ、やはりブルガリア正教徒のボリス氏が創業した店であるという。
ネットで検索しても、そういう記事は出てこなかったけれど、ボリス氏の父祖もオスマン帝国の宮廷へ、カイマクやヨーグルトといった乳製品を納めていたのかもしれない。 

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