メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

廃品回収屋さんの末弟

 先日、市場へ買い物に行った帰り、廃品回収屋さんの所へ寄ったら、経営者である長兄(35~40歳ぐらい)に、「それで何作って食べるの? あんたに早く嫁さんを世話してあげなきゃなあ」と、また言われた。
それで、傍らに座っていた弱冠23歳の末弟を指して、「そんなことより、こっちの嫁さんを早く世話してあげなさい」と応じたところ、「こいつは駄目だ。何の見込みもない。早く日本かどこかへ連れて行ってくれ!」なんて笑っている。
おそらく、当時の義務教育である小学校(5年制)しか出ていない長兄と異なり、末弟は一応短期大学の卒業である。でも、長兄に言わせれば、「せっかく金かけて勉強させてやっても、何にもならない。相変わらず馬鹿のままだよ」ということになるらしい。
まあ、卒業して良い仕事が見つかったわけでもなく、汗にまみれて廃品回収屋の手伝いをやっているのだから、長兄としては何とも歯がゆいのだろうが、一生懸命働いているし、なかなか頼もしい好青年のように思える。
好奇心旺盛で、短大で勉強したから、ある程度基本的な知識もある。私の話を面白がって聞いてくれるけれど、私もこの青年と話すと楽しい。
しかし、彼女がいそうな気配はない。ちょっと女性に声かけたりする器用さもないような気がする。
「短大には女の子もたくさんいただろう? 何か良い話でもなかったのか?」と水を向けても、「いやあ、あなたと同じで、僕も『電気が走った』とか、そういうのは全く解らないんですよ」という。女の子と向き合ったりしたら、赤面して何も話せなくなってしまうそうだ。

私たちのやり取りを笑いながら聞いていた、もう一人の次兄も、「こいつは度胸がねえんだよ」と冷たい態度である。
それで私が、末弟の代わりに言い返してやった。「そんなこと言って、あなただってお見合いで結婚したんじゃなかったんですか?」
信心深い保守的な家族のことだから、きっとそうだろうと思い込んでいたのだ。長兄からは見合いの話を聞いた覚えもある。
ところが次兄はそうじゃなかったらしい。「俺は恋愛結婚だった。二人で結婚しようと決めてから、自分で彼女の親のところへ行って話した」というから大したものだ。
しかし、繰り返し「度胸がない」と詰るのには、私も少々ムッとした。「そうかなあ、やたらと女の子に声をかける連中がいるけれど、ああいうのは度胸じゃなくて、恥知らずなだけでしょう」
これには、末弟も嬉しそうに反応してくれた。「そうです! まさしく、その“恥知らず”だと僕も思います!」。そして、意気投合して固い握手を交わした。
それから、ふと周りを見たら、次兄も隣にいるおじさんもヒーヒー笑っている。口車に乗せられた末弟はともかく、なんだか最も恥知らずなのは、やっぱり私であるような気がして、どっと落ち込んでしまった。