メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ビトゥリスの墓所と犬

10リラの城壁、眺めは素晴らしかったけれど、入場料を取るにしては、整備状況がお粗末だったような気もする。
案内板は入口のところに簡単なのが一つあっただけで、望楼などが何処から上がれるようになっているのか、何の標識も出ていなかった。回廊の電気が切れていて、真っ暗な中を手探りで登った所もある。
城壁の下に立って、『多分、登り口はあの辺だろう』と見当をつけ、薄暗い入口に近づいてから、暫し躊躇った末に、中へ入って登り始めたりした。
薄暗い所に入って、中で男女が抱き合っていたら、話のネタになるだけだが、それぐらいじゃ済まされない場合もある。

20年ほど前の夏、南東部を旅行して、ビトゥリスの街を歩いていると、何か由緒のありそうな墓所の前に出た。背の高さほどの石造りの構造で、半地下のようなところに降りて行く入口が一つあった。
少し身を屈めなければ入れない高さで、4段ほどの階段を降りて行くようになっている。奥の方は暗くて見えないが、どうやら石棺らしきものが置かれているようだ。
その時は、殆ど躊躇うこともなく、遺跡の発見者になったような気分で、暗がりの中へ降りて行った。そうしたら、石棺の脇に寝そべっていたと思われる大きな犬が、いきなり身を起こして躍り掛かって来たのである。
私は、「ひょええー」とか、だらしない叫び声を発したまま、階段の上へ仰向けにひっくり返ってしまい、犬は私の上を越えて外へ飛び出して行った。まあ、犬の方も、いきなり変な奴が入って来て、あっと驚いたのだろう。
私はひっくり返る際に、何処かへ頭をぶつけたらしい。起き上がってから、そこへ手を持って行くと、少し血が出ているのが解る。しかし、せっかくだから、石棺の周りをぐるっと一回りしてから外へ出た。中は目が慣れたら、それほどの暗さでもなかった。
その日は、頭の些細な怪我はともかく、服に血がついてしまったため、街の方々で何度も、「どうしたんだ?」と心配そうに近寄って来る人たちへ、同じことを繰り返し説明しなければならなかった。当時は、ビトゥリス辺りの山間部でも、武力衝突が散発していて、一帯は非常事態宣言地域になっていたのである。

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