メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

チャルシャンバの保守反動主義者?

ヨーロッパ側のファティフ区にあるチャルシャンバという街へ行くと、頭にターバンを載せ、顎鬚を生やして、ダブダブのズボンをはいた男たちや、黒い布を頭から被り、顔は目と鼻・口が辛うじて見えているだけという女性たちばかりが、やたらと目に付く。
彼らの多くは、イスマイル・アーという非常にラディカルなイスラム教団の信徒であるという。一説によれば、かつては普通の人々がもっとたくさん住んでいたけれど、この信徒たちが集まり始めたら、一部は薄気味悪くなって他所へ引越してしまったらしい。
信徒が礼拝に訪れるイスマイル・アー・モスクでは、アザーンの呼び掛けにスピーカーを使わず、実際に詠み手が尖塔へ登って呼び掛ける。このアザーンがとても味わい深い。それで、友人たちを案内したりして、年に一度ぐらいは、チャルシャンバの街を訪れている。
昨年も9月頃に出かけた。イスマイル・アー・モスク前のパスターネ(菓子屋)でお茶を飲もうと思って覗いたら、ちょうど菓子を買いに来ていた黒装束の女性とターバンに顎鬚の店員が、何か言葉を交し合っているのが見えた。
女性が支払いを済ませて出てくるのと入れ替わりぐらいに店へ入り、チャイを頼んで腰を掛けたら、顎鬚の店員が前に座って色々話しかけてくる。これを幸いに、私もこの男の宗教的な信条などをあれこれ訊いてみた。
彼は宗務庁の見解など殆ど認めていないようである。だから、AKP政権も支持していなければ、イマーム・ハティップといった国の宗教教育方針にも否定的だった。

彼のイスラム理解によれば、女性は男の性欲をかきたててしまうため、外を出歩いてはいけないそうである。「店には女性のお客さんも来ますよね?」と訊いたところ、それは仕事だから応対しなければならないが、言葉は必要最小限に留めて、むやみに女性と話すべきではないと言う。
これには思わず、『嘘こけ、さっき君は女性客と必要以上に喋っていただろう』と言いたくなったが、そこをぐっと堪えて、「しかし伝聞によれば、預言者の妻アイーシャも戦闘に参加していたそうじゃないですか?」と問い返したら、彼はちょっと興奮して、「嘘だ! そういう話は皆嘘だ!」とこれを真っ向から否定した。
彼の後ろには、もう一人、髭も剃って小ざっぱりとした身なりの店員が立っていたけれど、この店員は身振り手振りで、『こいつの話は聞かないほうが良い』と伝えながら笑っていた。
顎鬚男には、未だ就学年齢に達していない息子さんがいるそうだ。「息子さん、大学まで行けると良いね」と水を向けたら、「私らは無学なので・・」と恥ずかしそうに笑ってから、「そりゃ大学へ行ければ良いですが・・」と嬉しそうだった。
大学へ行かせようと思ったら、あの禍々しい国の宗教教育も受けさせなければならなくなってしまうはずだが、そこまでしつこく訊くのは止めにした。
おそらく、『子供を大学へ行かせたい』とか『商売に励んでもっと良い生活をしたい』というのが彼の偽らざる心情じゃないかと思う。
多分、彼はイスマイル・アー教団の信徒なのだろう。何故、この教団に加わったのか解らないが、日本で少し変わった新興宗教に入信する人たちと、その背景・経緯はそれほど変わらないような気がする。

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