メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

そして、道は開かれた・・・

一昨日の3月21日は、トルコの“春の祭典”ネヴルーズだった。日本の“春分の日”。イランではノルーズと呼ばれ、イラン暦の新年ではなかったかと思う。
この日は、昔から、中央アジアやイラン、トルコの人たちにとって大切な“春祭り”の日だったらしい。
ところが、90年代、私が初めてトルコへやって来た頃は、ネヴルーズと言えば、まるで、トルコ政府と対立するクルドの人たちが政治的な主張を掲げる日であり、毎年、この日になると、南東部のクルド人地域で、民衆が警察や軍と衝突して大変な騒ぎになっていた。
それが、この数年大分落ち着いて来たけれど、今年のネヴルーズには、ある政治的な重大発表が予定されていたため、私も一昨日は何だか緊張して、報道がネット上に伝えられるのを待っていた。
反政府クルド人武装組織PKKの指導者で、99年からイムラル島の刑務所に収監されているアブドゥッラー・オジャランの声明が、この日、クルド地域の中心都市ディヤルバクルの広場に集まった民衆の前で発表されると言われていたのである。
武装解除と平和を呼びかける声明が予想されていたものの、何処まで踏み込んだ内容になるのか、多くの人たちが固唾を呑んで待ち構えていたに違いない。
結果は、武装解除と平和に留まらず、クルド人トルコ人の団結まで呼びかける声明で、なかなか感動的だった。
まず、クルド語で読み上げられた後、映画界からクルド系政党BDPの議員に転身したスレイヤ・オンデル氏(自身はトルクメン系のトルコ人)が、たっぷり情感を込めながら劇的にトルコ語で読み上げたため、興奮した私は思わず目頭を熱くしてしまった。ついに平和が訪れるのかと・・・。
もちろん、今の段階では、平和への道が切り開かれたと言えるだけで、まだ長い道のりが残っているけれど、この日の晩は、ディヤルバクルの街も、それまでの緊張が一気に緩んで、のんびり平和に浸っているような雰囲気だったそうだ。
声明でオジャランは、今後の運動は政治の舞台で行われるとして、武力闘争の終結を明らかにしていた。そして、武力闘争の尊い犠牲により、“我々はクルド人としてのアデンティティーを勝ち取った”と表現している。当初の目的は分離独立だったのだから、これが勝利と言えるのかどうか解らないが、少なくともディヤルバクルの広場に集まった民衆は、歓声を上げて、これに満足しているように見えた。
後は、まだ武器を手にしているPKKのメンバーが、この指導者の呼びかけに応じれば、平和は現実のものとなる。
声明の中には、「イスラムの旗の下、千年に亘って共に暮らしてきたクルド人トルコ人・・・」であるとか、「“国民の誓い(ミサク・ミッリ)”に基づき、トルコ人クルド人の主導により実現した救国戦争の、現在における、さらに複雑で深化したバージョンを展開するのだ」といった驚くべき表現も含まれていた。
“ミサク・ミッリ”とは、1920年、最後に開かれたオスマン帝国の議会で、アタテュルクによって準備され合意を得た宣言であり、この宣言の中で守るべきとされた領土には、現在の北イラクも入っているから、この表現の解釈を巡って、早くも様々な憶測が飛び交っているけれど、オジャランは、トルコ政府やトルコ人に対して、「今後とも宜しく」とリップサービスに努めただけかもしれない。
しかし、北イラククルド自治政府もトルコとの結びつきを深めていて、同地の石油資源にもトルコの影響力が及びつつあると言われ、イラク戦争で漁夫の利をトルコにさらわれた格好になるアメリカが、トルコとクルドの蜜月状態を快く思っていないと説く識者もいる。
また、オジャランが声明で、何に対して、クルド人トルコ人の団結を謳っているのかと言えば、それは「我々を分断しようとする西欧の帝国主義者たち」であり、これではまさしく救国戦争の現代バージョンになってしまうが、ただ団結を謳うために“架空の敵”を用意しただけのような気もする。
声明の最後の部分では、「西欧の現代文明の価値を全て否定したりはしない。啓蒙、平等、自由、民主主義を受け入れる・・・」と明らかにし、民主主義、自由、平等を何度も繰り返しながら、エンディングを盛り上げていた。
そもそも、この日を迎えるに至ったのは、AKP政権がグローバル化を受け入れ、欧米と協調しながら、急速な経済発展を成し遂げてきたからじゃないだろうか。トルコもクルドも一緒くたに、グローバル化の波に飲まれてしまっただけだったりして・・・。
でも、それによって人々の暮らしも豊かになったし、トルコの民主化は確実に前進した。そして、平和が訪れる。これの何処が悪いのか? 世界は狭くなった。時代は変わったのだと思う。オジャランは刑務所の中から、この時代の変化を読み取っていたのかもしれない。

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