メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

リビア人留学生ハシム

9月になって、エーゲ大学のキャンパスにあるトルコ語学校へ通うことになった。この大学のレベルがどんなものなのかは良く分からない。ただ、イズミルでもナンパな校風で名を馳せているようだ。
私は日本で大学のキャンパスに足を踏み入れたことが殆どないので、比較のしようもないが、果たしてあんなにそこらじゅうで男女がいちゃいちゃしているものだろうか? エーゲ大学では、いったいこの人たちは何しに学校へ来ているんだろうと、疑問を感じてしまうような有様だった。
しかし、トルコ語学校の方は、文学部の教授やら助教授が講師を務めていて、美人講師の学校よりはるかにお堅い雰囲気だった。生徒は、本格的に学部で勉強するために留学している人が殆どで、多くがイスラム圏の国々、パレスチナであるとかヨルダン、イラン等から来ていた。私も、これでやっと落ち着いてトルコ語が学べるとホッとしたものである。

生真面目な私は、ナンパな連中よりも、却って少々お堅いイスラム圏から来ている学生と結構波長が合うように感じることもあって、ハシムというリビア人の学生もそういった中の一人だった。
このハシムと一緒に、韓国人の友人を彼の事務所へ訪ねた時のことである。受け付けにいたなかなか魅力的なトルコ人女性に来意を告げたところ、
「今、来客中なんでちょっとお待ちになって下さい」と答えた後で、私の方を見ながら、
「お久しぶりです。私のことを覚えていますか」と言う。
『さて、どこで会ったものか』と考えていたら、ハシムが、
「もちろん覚えていますよ。久しぶりですね」と彼女の方へ歩み寄った。
『なんだ、ハシムに向かって言ったのか』と思っていると、彼女は怪訝そうな表情で、
「あなたのことなんか知りませんよ。私はそちらの日本人に言ったのです」
『やっぱり私に言ったのか、それでは、いったいどこで会ったんだろう』と、また考え始めたところ、ハシムは委細構わず、
「あれ、おかしいな。僕は君のことを覚えているんだけどね。どこで会ったんだっけ。思い出さない?」
彼女はこれを無視して、
「私、以前はカルシュヤカにある韓国料理屋で働いていたんですよ。あの時は韓国の民俗衣装を着ていたから、大分違ったように見えるかも知れませんねえ。思い出しました?」と私に訊く。
『ああ、あのチマ・チョゴリの美女がこの人だったのか』と、
「ええ、思い出しました」と言ったっきり、次の言葉が見つからない私を尻目にハシムは、
「じゃあ僕とはどこで会ったんだろう」と尚も食い下がる。
「あなたとは会っていませんよ。勘違いしないで下さい」と言う彼女に、今度は、
「でも、こうやって今会っているでしょ。さあ、次はいつ会おうか」とほとんど口説きに掛かる。私がただあっけに取られて見ていると、そこへ、韓国人の友人が現われ、「やあ、お待たせして申し訳ない」と私たちを中へ招き入れたので、このナンパ劇には、ここで幕が下ろされてしまった。
その後、私はこの女性に会う機会がなかったけれど、ハシムが再びここを訪れて第二幕を演じたかどうかは分からない。それにしても、あの押しの強さ、さすがはカダフィ大佐の国から来た人だと感心してしまった。ちなみに、カダフィ氏もトルコに留学していたことがあるそうだ。