メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ウクライナが譲歩する可能性?

トルコのウクライナに関する報道は、毎朝の出勤前と帰宅後にざっと眺める程度だが、このところ識者らの論じ方にも多少変化が見られるようだ。以前、「ロシアはNATOの罠に嵌った」と論じていた識者が「このぐらいの抵抗は想定済みだったのかもしれない」などと言い始めたりしている。

9日には、いくつかのトルコの報道局が「クリミヤなどロシアの要求に対してゼレンスキーは話し合う用意があると述べた」と報じていたが、これに関して10日のサバー紙のコラムでハサン・バスリ・ヤルチュン氏が論じていたので、昨晩、これを拙訳してみた。

ヤルチュン氏はロシアの侵攻前から「いつ侵攻が始まっても不思議ではない」と主張し、侵攻後は「ロシアの立場は困難になるだろう」と論じていたけれど、先週あたりからヤルチュン氏の見方にも多少変化が現れて来たかもしれない。

7日のコラムでは、「プーチンを裁判にかける」という議論が西欧で盛んになっているのは理解し難い異常な事態であるとして、次のように述べている。「プーチンを裁くためには、まずモスクワを占領して彼を捕まえなければならない。・・・・第二次世界大戦後、ニュルンベルクでドイツ・ナチスの指導者らを裁き、日本では法廷を開いた。しかし、どういうわけか、原爆を投下させたトルーマンを誰も裁こうとはしなかった。・・・」

以下は、拙訳した10日のコラム記事である。

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ウクライナのゼレンスキー大統領の発言が混乱し始めている。まず、ロシアが要求しているクリミヤの承認、そして、ドネツクとルハンスクの独立を議論の対象に上げた。続いて、ウクライナNATO加盟を諦める可能性も議論できると発言している。

これは非常に重要な発言である。ロシアの当初の要求全てに対して議論の用意があると明らかにしているからだ。つまり、ウクライナの領土の一体性も議論できると言うのである。

以前は、全く譲歩しない態度を見せていた。そのために、侵略に対する抵抗のシンボルとなった。

ゼレンスキーの発言には、二つの要因があるかもしれない。抵抗する力が弱ってしまったのか、あるいは欧米に向けたメッセージである。ロシアという巨大な軍事機構に対するウクライナの抵抗には、どの道限界があると誰もが解っていた。今、ゼレンスキーはこの限界を感じ始めている。しかし、最も重要なのは、ゼレンスキーが欧米の支援に失望したということだろう。

何故なら、ゼレンスキーは当初よりEUへの加盟が早まるように希望していた。ところが、現在この意味で進展があるとは全く思えない。一方、ゼレンスキーは、NATO加盟を選挙公約に掲げていたが、これにも近づいていない。それどころか、飛行禁止区域設定の要請は全て拒否されている。

欧米は、ゼレンスキーを一定のエリアではもちろん支援している。陸上での支援は途切れていないし、経済的にも援助を与えている。国際世論も味方につけてくれた。しかし、これは空域での支援ほどには戦争の結果に影響を与えない。私たちはシリアの前例でこれが解った。ゼレンスキーは今身近にこれを見ている。空からの支援がなければ侵略を防げない、ウクライナが破壊されてしまうことを理解しただろう。

欧米が今まで彼に何を約束したのかは解らない。しかし、NATOが飛行禁止区域を設定するのは、このような状況では現実的なシナリオと言えない。もしも、ゼレンスキーが支援の約束に頼っていたのなら、今、大きな失望を感じていると言えるだろう。だから、ゼレンスキーはこの発言で欧米を脅している。「私に充分な支援を与えず、ウクライナを守るのではなく戦場にしようとするのを止めなければ、私も降伏する他にない」と言いたいのである。

分けても、ブリンケンが、ある問いに答えて、「ゼレンスキーが殺されても、我々にはBプランがある」と言い放ったのは、ゼレンスキーを打ちのめしたに違いない。米国人は、このような過程においても、これほどまでに無神経な発言を躊躇わないのである。そもそも、そのために欧米の連合は、今、カオスの中にある。米国が戦略的な目標を見直す代わりに、内政向けのメッセージを発信し続ける限り、欧米連合内部のアンバランスは治まらないだろう。

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(原文)

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