メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ウクライナに平和を:正教会バルソロメオス総主教の祈り

先週、3月3日にYouTube正教会のバルソロメオス総主教がCNNトルコのインタビューに答えている動画を観た。

バルソロメオス総主教は、通常、生放送のインタビューを断って来たそうだが、今回はウクライナの平和を祈って、25分に及ぶ長いインタビューに応じている。

インタビューはトルコ語で行われ、トルコ人記者の問いに総主教はトルコ語で答えている。

バルソロメオス総主教は、記者の問いに答えて、まずはウクライナのゼレンスキー大統領との親交から語り始めている。

イスタンブールコンスタンティノープル総主教庁を訪れたゼレンスキー大統領は、総主教を昨年のウクライナ独立30周年式典に招待し、総主教もこれに応じてキエフを訪れ、親交を深めたそうである。動画では、総主教庁を訪れたゼレンスキー大統領、そして総主教のキエフ訪問の様子を観ることができる。

私は迂闊にも、この動画を観るまで知らなかったけれど、ウクライナ正教会は独立正教会としてコンスタンティノープル総主教庁から承認を受けているという。2018年のことらしい。

おそらく、そのためにゼレンスキー大統領がイスタンブールを訪れたりしていたのだろう。当然、エルドアン大統領とも会っていたのではないかと思う。また、ゼレンスキー大統領がロシアとの停戦交渉の場所としてイスタンブールを望んだ背景には、こういった経緯もあったに違いない。

しかし、インタビューの中でバルソロメオス総主教も述べているが、ウクライナ正教会の承認は、ロシアから猛烈な反発を受けたそうだ。

ウクライナには、もともとモスクワ総主教庁系の正教会が存在しており、現在は2つの正教会が並立しているものの、かなりの信徒がコンスタンティノープル総主教庁から承認された正教会へ移ったという。

2017年の4月までイスタンブールで暮らしていた私が度々訪れたロシア正教の教会には、ウクライナ人の信徒も多く、正教会がロシア人とウクライナ人を結びつける重要な紐帯になっているのではないかと感じたほどだから、コンスタンティノープル総主教庁による承認は、ロシアに反発だけでは済まされない重大な懸念を抱かせてしまったような気がする。ひょっとすると、ロシアにウクライナ侵攻を決意させた要因の一つになっているかもしれない。

一方、インタビューの最後の所で、バルソロメオス総主教もエルドアン大統領の平和外交に言及しているように、戦争の拡大により火の粉を被る恐れのあるトルコは、停戦の実現に向けて最大限の努力を惜しまないはずだ。

今日、エルドアン大統領とプーチン大統領が電話会談を行うと報じられているが、エルドアン大統領は、これまでにも度々、ゼレンスキー・プーチンの両大統領と話し合って来た。これは世界平和などという綺麗事ではなく、トルコの国益を守るためでもあるから、その熱意には疑いの余地などないと思う。

文明の十字路と言われ、多くの民族が混住して来た歴史に由来するのか、トルコの人たちは非常にバランスを取るのが巧い。エルドアン大統領もその例外ではない。

酷く誤解されているけれど、エルドアン大統領は決して「鳴かぬなら殺してしまえ」ではなく、どちらかと言えば「鳴くまで待とう」の政治家である。持前のバランス感覚で何とか調停が実現されるように私も祈りたい。

*2016年1月、イスタンブールの金角湾で催された聖水式で間近に見ることができたバルソロメオス総主教。

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