メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

鶴橋の「エゴマの葉」で思い出したソウルの市場での出来事

先週の土曜日、鶴橋の市場で「ケンニ(エゴマの葉の醤油漬け)」を買って来た。

本来はご飯のおかずだが、酒のアテにもなる。私は87年~88年にソウルの下宿で慣れ親しんで以来、このケンニが大好きである。

こちらへ越して来てからも、三宮や元町辺りの韓国食材店で買い求めたりしていたけれど、昨年来、何処の店でも見つからなくなっていた。コロナ騒ぎで入荷が止まっているそうだ。

まずは、コロナ騒ぎの影響がこんな所にも及んでいることに驚き、それから、ケンニが輸入品であると知って、これまた驚いた。「エゴマの葉」なんて、日本にいくらでもあると思っていたのである。

しかし、ひょっとすると、「エゴマの葉」を輸入して日本で加工するのではなく、醤油漬けになった製品を輸入しているのかもしれない。それなら「輸入品」となっている理由も良く解る。

その場合、輸入元は韓国じゃなくて中国であるような気もする。人件費の高騰している韓国では、もう随分前から、キムチも中国で作らせて輸入していたくらいなのだ。

韓国を訪れた2013年の4月、在韓華僑の友人兄弟に「何処の料理屋のキムチも同じような味だと思いませんか?」と訊かれた。なんでも、殆どの料理屋や食材店が中国から輸入されたキムチを扱っているという。

それは、日本から来た友人夫婦を案内して、チャンジャ(鱈胆の塩漬け)等の食品を売る店に出かけた際、私も自分の目で確認していたので、それほど驚かなかった。

在来市場の一角にあるチャンジャの店は、日本のガイドブックにも記載されている人気店で、友人の奥さんは、「韓国へ行く」と言ったら、方々から「それなら是非」と土産物を頼まれてしまったらしい。

観光客など殆ど来ない市場の中で、その店の前だけは日本人観光客が溢れかえっていた。店は作りも品揃えも他店と余り変わりないように思えたが、店主のアジュモニ(おばさん)が流暢な日本語を話すところが違っていた。

おばさんは、日本語が流暢なだけでなく、品の良い気配りも申し分なく、『若い頃はさぞかし美しかっただろう』と思わせる容貌もあって、「市場の女将さん」という雰囲気では全くなかった。どちらかと言えば「学校の先生」のような感じだった。

来客には全てヤクルトを一本ずつサービスするという「おもてなし」の心で、友人夫婦の買い物が終わるのをボンヤリと立って待っていた私にも、すかさず椅子を用意してくれた。

それで、おばさんに丁重に韓国語で礼を述べて椅子に腰かけた後のことである。座って目線が下がると、各商品の陳列ケースの前に表示してある原産地名が自然と目に入るようになった。韓国では市場の店にも原産地表示が義務付けられていたのだろう。全ての陳列ケースに、おそらくは偽装の余地もなく、原産地名が表示されていた。

驚くことに、その殆どは「중국산(中国産)」というハングル表記だった。中には「러시아산(ロシア産)」なんていうのもあったが、「국산(国産)」というのは一つしかなかったように記憶している。

呆気に取られて一つ一つ確認してから顔を上げたら、不安そうな表情でこちらを見ているおばさんと目が合ってしまった。

もちろん、その場でそれを指摘したりする野暮なことはせず、私は立ち上がって、時間潰しに周囲の店を覗いてみたりした。

隣には、作りも品揃えも殆ど変わらない食品店があったけれど、こちらは来客もなくガランとしていて、如何にも市場の女将さん風のおばさんが手持無沙汰に座っていた。私が挨拶してから、当たり障りのない話で場を紛らわそうとしたら、おばさんは気持ちよくカラカラと笑ってくれた。

しかし、今、あの二軒の店はどうなっているだろう? 日本人観光客も殆ど来なくなり、どちらも同じようにガランとしていて、おばさんたちも手持無沙汰に『昔は良かったねえ』『おたくはそうかもしれないが、うちは昔も良くなかったよ、ハハハハ』なんて語り合っているだろうか?

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