メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

「姿を見せぬ監視員女性」

《2014年7月12日付け記事の再録》

トルコから日本へ一時帰国していた2003年の5月、私は3千円ほどの現金をなんとか工面しなければならなくなってしまった。
ちょうどゴールデンウィークで、銀行はATMも休止している。ふところには330円しか残っていない。どうしようかと考えて、「こういう時こそアコムじゃないか」と思いついた。
早速。駅前で良く見かけるけど、多分お世話になることはないと思っていた、あの「むじんくん」へ・・・。 
無人契約コーナーという個室に入って、パソコン画面の指示に従いながら、運転免許証やらパスポートをカバンから取り出していると、横の壁に掲示されている表に「最低融資額5万円・利息2千なんぼ」とか書かれているのが目についた。
『3千円もあれば充分なのに、5万円借りて2千円も利息払ったってしょうがないよなあ』と思いながら、詳細の書かれたパンフレットでもないかと、辺りをキョロキョロしていると、突然、パソコンのほうから、録音されたものではない女性の声がして、「お客様、どうなさいました?」。
思わず、また辺りをキョロキョロしてしまったが、無人とかいって、しっかりカメラで監視しているらしい。 
まあ、どこにあるとも分からぬカメラに向かって、ひとりで怒ってみても始まらないから、ごく当たり前な調子で「最低融資額」の件について訊ね、「3千円ほどで充分なんですが」と言うと、「お客様、まずはお手続きをお済ませ下さい」と姿を見せぬ女性の声。
「それは、手続きすれば、3千円からでも貸してもらえるということなんですね?」と重ねて訊いたけれど、「お客様、まずはお手続きお済ませ下さい」と、今度は録音テープのように同じ口上を繰り返す。 
しょうがないから、指示通りに申請書を書いて、所定の位置に置いたところ、「お客様、お勤め先は?」と、また監視員女性。「ありません」と答えたら、「お客様、ご就職なさってから、またお手続きにいらっしゃって下さい」とぬかした。
ここは本当に、「バカヤロー」と叫びたいくらいだったが、そのまま、そそくさと外に出た。しかし、あのカメラ、いったい何処にあったのだろう? カメラに向かって、「アッカンベー」とやるぐらいなら、愛嬌があって良かったかもしれない。 
でも、次のように応じてやれば、もっと面白かった。
パソコンの画面に、「身分を証明するものとして、次の内の何をお持ちでしょうか?」とテロップが出たら、わざと回りをキョロキョロしながら、監視員女性から「お客様、どうなさいました?」と声がかかるのを待ち、「ちょっと身分証明として、この中に無いものを持参したんですが・・」と言う。
「どんなものでしょう?」と訊かれたら、やおらズボンを下ろし、カメラに向かってイチモツを取り出して、「ワシの身分証明はこれじゃ、どうだ!」と言い放つ。
多分、私の場合だったら、「おっ、お客様! 本当にご立派です。直ぐに無利息で100万円ほどご融資いたします」ということになるんじゃないかと思う。 (嘘です。おそらく「お客様、それは何でしょう? もう少し大きくしてから、またお手続きにいらっしゃって下さい」と言われるのが落ちです)
まあ、冗談はともかく、姿を見せない監視員女性に、こちらの風体をじっくり観察されてしまうのは恐ろしいような気がする。
監視センターが何処にあるのか知らないけれど、監視員女性たちは、その日の仕事が終わると、「今日さあ、〇〇駅前に変なバカが来たのよねえ」なんて楽しく語らい合っていたのではないか。
偶然、何処かで私を見かけて、「あっ、いたいた。あいつよ」などと喜んでいたかもしれない。それから、無人契約コーナーに知人や友人、有名人が入ってきたら、これまた話のネタになっただろう。プライバシーもへったくれもありゃしない。
もっとも、今や、日本でもトルコでも、街角などにたくさんの監視カメラが設置されている時代だから、このぐらいは当たり前なのか・・・