メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

勝てない戦争

軍人は、現実を無視して戦争を始めた場合、真っ先に自分たちが死ぬことになるから現実的にならざるを得ない、とは良く言われるものの、戦前の日本の軍人たちは、果たしてどのくらい現実的だったのだろうか? 

満州事変以降、日本軍は現実を見失って暴走したと論じる識者が少なくないようだ。現実的に考えれば、太平洋戦争で米国に勝てるとは到底思えなかったに違いない。 

私の父は、太平洋戦争が始まる前に満州で兵役を済ませ、戦時中は、再度の徴兵を逃れようとして、何処かの軍需工場で働いていたという。

「あんな戦争、最初から負けると思っていた」と先見の明があったかの如く自慢げに話していたけれど、最近読んだ記事によれば、戦前も都市では米英との力の差が身近に感じられたため、戦争が始まって、都市住民の多くは「大変なことになった」と認識していたらしい。 

一般の市民がそう思うくらいだから、軍人たちも「勝てない戦争」であることは解っていたのかもしれない。 

しかし、中東における米国のやり口を見ていると、たとえ太平洋戦争を回避できたとしても、日本はずるずると米国の支配下に置かれてしまっていた可能性もある。米国は中国大陸への橋頭堡を確保したかったのではないか? 

戦わずして、逃げながら支配下に置かれた場合、状況はもっと悪くなっていたとも考えられる。最後に意地を見せたことで、日本は全ての尊厳を失わずに済んだという説は、あながち間違っていないような気がする。 

福岡でインド人就学生のサイードさんと話していて、彼がマハトマ・ガンディーを全く評価していないことに驚いた。戦って武力で英国を叩き出していれば、当の英国からもっと敬意を得られていたと言うのである。

トルコや中国は敢然と戦って独立を維持した。 

硫黄島からの手紙」といった映画を見れば、確かにそういう精神は理解できるのだろうけれど、ぞっとするような恐ろしさがあるため、私にはどうしても理解したくない気持ちが作用してしまう。 

「勝てない戦争」は、現実的な思考より激しい熱情がなければ戦えなかったに違いない。特攻隊はもちろん、戦後に割腹自殺を遂げてしまった将官らにも、その激しい熱情が感じられる。その命は日本の尊厳を守るために捧げられたのではないかと思う。

 本当に恐ろしいことだが、元来人間はとても恐ろしい動物であるかもしれない。