メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

テロの不安とテロ対策

ニースのトラック暴走の一報を聞いて、まずは8年前の秋葉原の事件を思い出してしまったが、もしもISのような組織によるテロであったとすれば、これを未然に防ぐのは一層難しくなりそうで恐ろしい。
もちろん、個人的な犯行であったとしても、恐ろしさに変わりはない。要因の一つに、現代社会の歪みが生んだ疎外感やら恨みの意識をあげるなら、秋葉原の事件もそうであるし、世界の至るところに、そういった要因は潜んでいるだろう。
しかし、テロの要因が最も多く潜在しているのは、残念ながら、やはり西欧のムスリム移民の社会であるような気がする。
2012年の11月にトルコで出版された「誕生から死に至るまでのイスラム主義」で、著者のミュムタゼル・テュルコネ氏は、エジプトのサイイド・クトゥブによるラディカルなイスラム主義が、トルコにあまり影響を与えなかった理由を次のように説明していた。
「トルコでは如何なるムスリムも、西欧に対して、あれほど打ちひしがれた感覚を持っていなかった」
サイイド・クトゥブのイスラム主義については良く解らないが、90年代、トルコのイスラム主義者たちは、あらゆる災いを欧米の所為にして、自らを正当化しているように見えた。
エジプトなどのイスラム主義者らも、西欧の前に打ちひしがれていたムスリム社会を鼓舞するつもりで、西欧に対する憎悪を駆り立てていたかもしれない。
こういったラディカルなイスラム主義の流れが、現在、西欧で疎外感に苛立っている一部のムスリム移民に、大きな影響を与えているのではないだろうか?
フランスでは、非常事態宣言も続いているようだけれど、テロ対策・治安強化が一層ムスリム移民の社会を追い詰めてしまわないように祈りたい。
テロが相次いだトルコでも、テロ対策法は強化されている。こちらは主にPKK等のクルド系のテロに対してだが、90年代の苦い経験を踏まえて、一般のクルド人住民が巻き込まれないよう慎重に進めているらしい。
しかし、先日から、PKKの幹部がシリアで暗殺されたとメディアで話題になっていて、この事件にはトルコの諜報機関が絡んでいるなどと言うのである。
強化されたテロ対策法により、「トルコの諜報機関は国境を越えた作戦にも関与できる」なんて説明されていたが、本当だろうか?
本当であれば、この作戦にアメリカの承認を得ているのかどうかも気になった。いずれにせよ、何だか90年代に戻りつつある気がして、疑心暗鬼にとらわれてしまう。
南東部が内戦状態に陥って以来、軍の権威はかなり高まっているはずだ。しかも、今日の軍は、以前と違って、“オスマン帝国の栄光”を遠慮なく誇っているかのように見える。軍の右傾化が始まっているかもしれない。
とはいえ、トルコの人たちの多くは、右も左も国防に対して敏感だから、これにはそれほど大きな反発もなさそうである。