メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

精神に病のある人たちとの共存

日本では、ベビーカーを電車やバスの車内に持ち込むことの是非が議論されているらしいが、トルコではベビーカーのお母さんを助けてあげるのが当たり前で、議論にすらならないような気がする。
すし詰め満員の場合はしょうがないけれど、混んでいても少し余地があれば、他の乗客たちが声を掛け合って、ベビーカーの入る場所を作ってあげたり、ベビーカーを畳むのを手伝ったりしている。もちろん子供を抱いたお母さんに誰も席を譲らないなんてことは有り得ない。少なくとも私が頻繁に利用しているイエニドアン発着の路線ではそうである。
いつだったか、バスの車内で泣き止まない乳児に苛立った中年男が、「子供を静かにさせてくれ!」と文句を言ったところ、周りの乗客たちから、「あんた子供を育てたことはないのか?」「赤ちゃんは泣くのが当たり前だ!」「嫌なら、あんたが降りろ!」と散々言い立てられ、男は黙り込んでしまった。
さて、これは昨日の出来事だが、バスの車内で、意味不明の言葉を喚き散らすおじさんがいた。50歳ぐらいだろうか? もう少し若かったかもしれない。小柄で身なりはごく普通に見えた。おじさんは、バスの中ほどに立っていて、小刻みに身体を震わせながら、ぶつぶつ何か言い、時折、大きな声で喚き散らす。
そんな状況が15分ほど続き、喚き散らす頻度が増してきたら、近くに立っていた大柄な中年男が、おじさんの腕を掴んで、「うるさい! バスから降りろ!」と威嚇し、ちょうど信号待ちか何かで止まっていたバスの運転手さんに、「ドアを開けてくれ!」と言いながら、おじさんを乗降口の方へ引っ張って行こうとした。
すると、何人もの乗客が、「おい、その人は病気なんだからしょうがないだろう!」と口々に言って、これを制止したのである。
中年男は、気まずそうにおじさんの側を離れ、おじさんも身体を震わせてぶつぶつ言うのは止めなかったものの、喚き散らすことはなくなった。
暫くして、高校生の男子がおじさんに席を譲ると、おじさんは大人しく座ったけれど、それからも身体を震わせながらぶつぶつ言い続けていた。
トルコでは、精神的な病を持つ人たちも、世間から温かく受け入れられているのかもしれない。
2005年~2007年にかけて住んでいたウスキュダルのアパートは、隣が空き地になっていて、ここに40歳ぐらいの男が廃品を集めてバラックを建てたりしていた。
男は廃車を改造しながら遊んでみたり、街頭演説の真似事をしてみたり、実に様々なパフォーマンスを見せる。時々、奇声を発したりすることもあったが、それほど周囲を不快にさせることもなかった。
私はアパートを引き払う際に、同居人たちが残していったベッドやら何やらを、全て彼に頼んで処分してもらったから、有り難いくらいだった。
近所の人たちの話によれば、もともと立派な家の子で、本人も学校での成績は良かったそうだが、いつのまにか気が変になって、もう長い間、そういう状態が続いていたらしい。
でも、あの街で、彼が周囲から嫌がられているような雰囲気は全く感じなかった。子供たちが、彼をからかって怒らせることもあったけれど、仲良く遊んだりもしていた。今、どうしているだろうか?

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