メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

マスラックの夜

5~6年前、“レジェップ・イベディック-2”という映画にエキストラで出たことがあった。この映画は、なんでも観客動員数の記録を作ったというくらいだから、観た人も多いらしい。最近になっても、たまに飲食店などで、「貴方あの映画に出ていませんでしたか?」と訊かれたりする。 
3ヵ月ぐらい前、うちの近所の床屋の青年にも訊かれた。「そうだよ」と答えたら、「僕は、この前の新作“レジェップ・イベディック-4”に出たんですよ。他にも色々出ています。貴方は何処のエージェントに登録しているんですか?」なんて言い出した。この辺りには、エキストラやっている奴が少なくないのかもしれない。
床屋の青年は、さらに、私がその映画に出た時の日当まで調べようとする。この問いにも、「200リラ、2日で400リラだったと思う」と正直に答えたところ、「僕は300リラでしたよ。役者としては僕のほうが格上のようですね」などと生意気なことを言う。
それで私も、「君はこの前出たんだろ? もう5年ぐらい経っているから、多少賃上げがあっただけだよ」と言い返してやった。このやり取りを聞いていた隣のお客が、声を立てて笑っていた。

エキストラは、先月、まだ工場へ通っていた期間中にも一件こなしている。撮影が金曜日の夜に始まる連続ドラマだったので都合が良かった。

その前にも、コマーシャル撮影のお呼びがあったものの、こちらは平日の昼だったため、取り逃がしてしまった。なんでも巧い具合には行かない。

連続ドラマの撮影は、ヨーロッパ側のマスラックという高層ビルが立ち並ぶ地区のスタジオで行なわれた。

カメラが回り始めたのは、夜の12時過ぎで、工場の業務が終わった後、アジア側の東端から駆けつけても余裕で間に合った。

この日、東洋人のエキストラは、もう一人モンゴル人留学生の青年が来ているだけだった。彼とは、待ち合い時間に、相撲の話題で盛り上がった。力士の名前も実に良く知っている。日馬富士のような小兵力士が好きらしい。
「ゴウエイドウ(豪栄道)も好きですね。あの人は何処の人ですか? 日本人ですか?」と、なかなか相撲通のようである。それで思わず、「豪栄道が好きだなんて、君はかなり相撲が解っているね」などと偉そうなことを言ったら、軽く笑われてしまった。
向こうはモンゴル相撲の経験もあるだろう。なにしろ凄い体格である。相撲取っても、私など一発で土俵の外まで突き飛ばされてしまうに違いない。“相撲が解っている”もへったくれもあったものじゃないと恥ずかしくなった。
さて、撮影の方は2時間ぐらいで終了したけれど、アジア側から来ているエキストラは、1台のミニバスで一人一人送り届けて行くため、私がイエニドアンに帰り着いたのは、もう明け方の5時半頃だった。近くのモスクからは、朝の礼拝を告げるアザーンの声が聴こえていた。

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