メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

野良犬の運命は如何に?

2週間ほど前、エルドアン大統領が「危険な野良犬」への対応について声明を発表していた。

トルコでは、行政の野良犬への対応を巡って、「殺処分」か「保護」かと議論が紛糾していたため、大統領が方針を明らかにしなければならなくなったらしい。

声明によれば、殺処分は行わず、避妊処置などで野良犬の増加を防ぐと共に、保護施設の充実を図るという。

野良犬に関して大統領が声明を発表するのは、何だか大袈裟であるように思えるけれど、動物を愛するトルコの人たちにとって、これは非常に重大な問題だったのかもしれない。

しかし、2021年の12月、ジャーナリストのナゲハン・アルチュ氏(女性)がハベル・テュルク紙のコラムに記したところによると、以前から、増えすぎた野良犬を殺処分していた地方行政府は少なくなかったそうである。

果たして、今後の展開はどうなるのだろう?

私がトルコに滞在していた頃から、大人しい街角の野良犬はともかく、郊外で野犬化した犬たちは、確かに剣呑な雰囲気を漂わせていた。

2014年、イエニドアンの我が家からほど遠くない所にある工場へ、しばらく通訳業務で通っていたが、送迎バスは幹線道路の混雑を避けて、荒涼とした野原の中の砂利道を行くこともあった。その途中に、大きな野犬が群れを成していたのである。

当時、私は暇があれば運動を兼ねて付近の野原を散策していたので、バスの窓から野犬たちを眺めながら、『こっちの方へ来なくて良かった』とホッと胸をなでおろした。

その4か月ぐらい後、タシュデレンからポロネーズ・キョイ(ポーランド村)まで歩いた時は、森の中の道で4匹の野犬に囲まれたりしたけれど、これは中型犬ぐらいの大きさで可愛らしかった。数キロの間、一緒に歩いたため、情が移って別れが名残惜しかったくらいである。

そもそも、トルコで山道を歩くのなら、野犬はともかく、牧羊犬に注意しなければならない。羊の群れを率いた牧羊犬は、羊を守るために襲い掛かってくることがあるからだ。

そういう牧羊犬に出くわした場合、近づいても遠ざかってもならず、飼い主が現れるまで、そこでじっとしているように教えられたが、これはとても役に立ったと思う。

イエニドアンに近い山の麓を散策中、羊の群れと牧羊犬が現れたため、立ち止まって辺りを窺うと、飼い主のおじさんの姿も見えた。大きな声で呼びかけ、先へ進んでも良いか訊いたところ、「大丈夫だ!」と言うので歩き始めたら、犬が猛然と走り寄って来て低いうなり声をあげる。私はまた立ち止まり、動かずにじっとしていた。

おじさんも足早に近づいて犬を押さえてくれたけれど、その際に、「お前は良く解っているね」なんて言いながらニヤッと笑ったのである。解っていなかったらどうなっていたのだろうか?

この牧羊犬は、ボーダーコリーに似た犬で、それほど大きくなかったが、トルコにはカンガルという非常に大きな牧羊犬もいる。

94年の夏にカイセリへ旅行して、バスでエルジエス山の中腹まで行き、帰りはタクシーをつかまえようと、道端に立っていたところ、そのカンガルらしき犬が、6~8歳ぐらいの幼い姉弟に連れられて前を通り過ぎて行く。犬は棘の付いた物々しい首輪をつけていたが、子供たちの横を歩く姿はとても大人しそうな感じだった。

犬と子供たちが通り過ぎると直ぐにタクシーが来たので、それに乗り込み、犬がカンガルであることを運転手さんに確認してから、「でも、あんな小さな子供が連れて歩いているくらいだから大人しい犬なんだろうね?」と訊いてみた。

これに対して運転手さんは、「あれは飼い主の子供だから大人しくしているんだ」と言い、「どんなに恐ろしい犬か見せてやるから、そっちの窓をしっかり閉めてくれ」と私に命じた。

言われた通りに窓を閉めたら、運転手さんは、犬と子供たちを追い越す際、車を少しだけ犬の方へ寄せた。すると、犬は突然牙をむき出して車に襲い掛かって来たのである。

トルコの田舎道で、何度か道端に転がっている大型犬の死骸を見たけれど、あれは果敢に車へ挑んだものの、敢え無く敗退してしまった勇ましい犬の変わり果てた姿だったのだろう。