メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

熟成された10万円

 イスタンブールでは、残金が3千5百ドル辺りを下回ったら、日本へ引き上げなければならないと考えていたが、結局、帰国を決断した時点で残っていたのは、合わせて2千5百ドル相当の預金と現金に過ぎなかった。
イスタンブールへの未練が決断を遅らせてしまったけれど、こうして福岡で仕事が見つかり、今、ホッと一息ついている。

なにしろ、帰国を決断してから、航空券を買ったりしたので、成田空港へ降り立った時に所持していたのは、様々な思いが詰まった10万円の現金だけだった。
この10万円は、一時帰国していた2015年の1月、イスタンブールへ戻る前日、友人がこっそり私のカバンに忍び込ませていたのである。
友人は、2013年に韓国で落ち合った際、韓国行は自分が要請したのだから、10万円を受け取るように望んだものの、私は、一時帰国する度、この友人の世話になっているのに、それまで受け取るわけにはいかないと思って断ったため、彼は以上のような手段を試みたらしい。
しかし、私はイスタンブールに戻って、カバンの中の物を適当に引き出しへ突っ込んだまま、2016年の1月になるまで、この10万円の存在に気がつかなかった。
10万円は、なんと1年もの間、引き出しの奥で静かに身を潜めていたのだ。きっと1年の熟成期間を経て、味わいが深まり、単なる10万円ではなくなっていたと思う。
ところが、屋久島では姉のところに居候して、たまに野良仕事を手伝うだけで食べさせてもらっていたのに、この有難い10万円の残りから少しずつ使ってしまい、福岡へやって来た私の財布には、2万3千円しか入っていなかった。
これからは、せいぜい節約して、貯蓄を増やして行かなければならない。所持金が、2~3万円では、何処へも行けないし、何か計画する余裕さえ失ってしまう。 

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