メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

政権と教団の暗闘

3月の地方選挙は、「AKP政権とフェトフッラー・ギュレン教団の対決」などとも言われていた。エルドアン首相らは、ギュレン師の信奉者たちが検察や公安組織の上層部に広がり、もう一つの政府を構成しようとしていると指摘して、彼らを徹底的に排除しなければならないと訴えていた。

そして、選挙でAKPが勝利したため、「最大の敗者は教団」と見られているものの、教団があっさり白旗を掲げて退いてしまったわけではない。AKP政権と教団の暗闘は、そう簡単に終わらないようである。

政府の中に、教団の指示によって動く別の組織が存在するのは、確かに問題だろう。これは、エルドアン首相が言うように、“徹底的”に排除されなければならないと思う。

しかし、教団の信奉者らを高い地位に就けて、彼らに力を与えてしまったのもAKP政権ではなかっただろうか。第一野党のCHPが、これを追及して、AKPの責任を問質していれば、今頃、違った展開が見られたかもしれない。

ところが、CHPは教団と協力し合う姿勢を見せ、教団と共に敗れてしまった。クルチダルオール党首はいったい何を期待していたのだろう?

前党首のバイカル氏であれば、政教分離主義の信念に基づき、教団と手を結ぶなどという姑息な手段は、絶対に認めなかったに違いない。今から思えば、2010年5月の“バイカル氏の失脚”は、CHPの改革でも何でもなかった。

信念の人バイカル氏には“教条的”という批判が絶えない。先週、5月6日付けのサバー紙では、メフメット・バルラス氏が、以下のようなバイカル氏の発言を紹介している。2000年代の初頭に、党の青年大会で演説した時のものだそうだ。

「CHPは、政権に就いていないかもしれないが、政権に就いている者たちは、CHPの理想に従って行動しなければならない。真の政権は、アタテュルクの政権である。政権に誰が就いているかなど重要なことではない。重要なのは、アタテュルクが政権に就いているかどうかだ。我々の目標は、アタテュルクの政権を継続させることである。政権に就いている時もこれを継続させる、政権に就いていなくても・・・」

これは確かに、とんでもない発言だけれど、青年大会の演説など、何処の党でも、景気づけに無茶苦茶な理想を掲げているのではないだろうか? 同時期のAKP青年大会を振り返ってみれば、エルドアン首相が“イスラムの理想”を掲げて、とんでもない話をしていたかもしれない。

CHPが健全な野党として蘇るためには、バイカル氏に再登板してもらうべきではないのか。教条的であるため、民衆の広範な支持は得られないだろうけれど、野党として“政権批判”の責務は果たせるはずだ。エルドアン首相もかつての教団との関係を、バイカル氏に舌鋒鋭く批判されたら困るに違いない。

ところで、教団は何処まで暗闘を続けるつもりなのだろう? 

昨年6月の末に教団の友人と会った。彼によれば、AKP政権と教団は決裂寸前だったが、ゲズィ公園騒動で、国内の左派・政教分離主義者ばかりか、海外のメディアもAKP政権のイスラム的な傾向に懸念を示して、非難の声が高まって来たため、自分たちも標的にされていると感じた教団の人々は、再びエルドアン首相のAKPと力を合わせて行くという話だった。

しかし、今考えて見ると、あの時点で教団が方針転換を図っていたようには到底思えない。友人も上層部の動向までは解っていなかったのではないか。

友人は、フェトフッラー・ギュレン師がイズミルで活動していた頃からの信奉者だそうである。教団が力をつけた後に群がって来た人たちとは違うだろう。“穏健なイスラム”などを標榜して、欧米から支援を受け始めた辺りから、教団は道を誤ってしまったような気がする。友人も、いつかは目を覚ますと信じたい。