メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

酒類販売の店

イエニドアンの家の近くで、酒類を売っている店は、まずあのジャー・ケバブ屋さんの二軒隣にあって、ここなら歩いて3分ぐらい。後は、先日、ラマダンになってから昼飯を食べた店のもっと先に一つある。こちらは歩いて7分ぐらい掛かると思う。
もちろん、いつもビールを買いに行くのは近いほうの店で、もう顔馴染みになっている。シヴァス県出身のアレヴィー派の家族が経営していて、夜店番している息子は、11時過ぎると自分も酔っ払っていたりする。
2ヶ月ぐらい前に、やっと気がついたが、この店は奥に一室設けてあって、そこでお客たちが飲めるようになっているらしい。奥から酔っ払った客が現れ、レジの息子に絡んでいるのを見て、これが解った。道理で酔っ払いの客が多いはずだ。息子も時々一緒になって飲んでいるから酔っ払ってしまうのだろう。
こんなことやっているから、“酒の販売は夜10時まで”なんて妙な規制法が出来るのかもしれない。
昨年、10年ぶりに訪れたクズルック村にも、そういう酒類売店が出現していて、元同僚のフセインと随分飲んだ。私が知らなかっただけで、昔からあったのだろうか? しかし、その近くで艶かしいネオンを放っている“売春宿”は昔なかった。
あの保守的な村に、あんなものまで現れるなんて信じ難いくらいだ。経済が活性化すると、色んな副産物がついて来るらしい。これも規制法の成立に充分貢献しているだろう。
さて、ラマダンに入る前の日曜日、夜11時ぐらい、いつものように近くの店にビールを買いに行ったら、店は閉まっていた。
仕方ないから、遠い方の店まで行き、「うちの近くの店、閉まっているけれど、どうしたんだろう?」と訊いたら、「知らないよ。商売止めたんじゃないのか?」とそっけない。同業者なのに、あまり仲は良くないようだ。
さらに、「この店も、9月から“酒類販売規制法”が施行されたら、10時までになるんだよね」と確認したところ、店の主人は「ハハハ」と笑い、「おい、ここはトルコだぜ。真面目に受け取らなくて良いよ。それに、俺はリゼ県の出身で、ターイプ(エルドアン首相)は友達だ。心配するな」と言い放った。
リゼ県の出身なら、アレヴィー派では無さそうだ。それでうちの近くの店とは懇意にしていないのだろうか?
この店は、ラマダンに入ってからも酒を売っているが、看板のネオンを消したりして、少しは周囲に配慮しているらしい。
近所の店は、あの日曜日以来、ずっと店を閉めたままだ。リゼ県の男は「知らない」と言うし、ちょっと心配になったので、昨日は、もっと中心街に近い、歩いて20分ぐらい掛かる所までビールを買いに行った。そこには50mぐらいの間隔で2軒あるし、ひょっとすると近所の店がどうなったのか、話が聞けるかもしれない。
最初に入った店は、看板のネオンは点いていたけれど、店内の冷蔵庫の照明が消えていた。冷蔵庫を開けようとしたら、レジに座っていた中年男性が、「ビールですか?」と訊き、次のように説明してくれた。
「すみませんねえ、ラマダン期間中は酒を売らないことにしているんですよ。いや、規制法とかじゃありません。私が昔からそう決めているんです。隣の店に行って下さい。ちゃんと冷えたビールを売ってますよ」
トルコには、普段は飲んでいても、ラマダンの期間中だけは飲まないという“敬虔”なムスリムもいる。この店の人も、そういうムスリムだったかもしれない。
50mぐらい離れた隣の店に行ったら、実際、看板のネオンも冷蔵庫の照明も点いていて、冷蔵庫には冷えたビールがずらりと並んでいた。
ビールを取り出して、レジに置き、勘定を払いながら、うちの近所の店について訊いたら、なんと親戚だそうである。この店の人たちもアレヴィー派に違いない。
「ちょっと田舎に用事が出来て帰省しているだけです。えっ? いや、ラマダン終わるまで待たなくても良いです。数日の内に戻ってきますから。宜しくお伝えください」という話だった。まあ、無事で良かった。私もビールを買いに何分も歩かなくて済むようになる。