メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

インフルエンザの予防接種

知人に勧められて、インフルエンザの予防接種を受けようかと思っていたけれど、「果たしてどのくらい有効か」と異議を唱える友人もいる。
接種を受けようと思えば、最寄りの薬局で簡単に受けられるらしい。そこで、今日、近所の薬局へ寄って訊いてみた。
「10TL(約500円)です。接種しますか?」とにこやかに応じて来たが、有効性について質問すると、「どのタイプが流行するのか、予想に基づいて作るわけですから、当たれば効くんですが・・・」と何だかはっきりしない回答。
「それじゃあ、宝くじみたいじゃないですか?」と言ったら、「ええ、チャンスがあれば効きますよ。ハハハハ」なんて可笑しそうに笑っていた。それで、ユーモアたっぷりに答えてくれた薬局の人には申し訳ないけれど、やっぱり止めにした。
予防接種と言えば、3年前の“豚インフルエンザ”の一件を思い出す。
当時、レジェップ・アクダー保健相は、自らワクチンの接種を受け、国民にも勧めたばかりか、「エルドアン首相もギュル大統領も接種を受けます」などと言ったらしい。
これに、エルドアン首相が「私は受けるつもりなどない。国民に強要すべきことじゃない」と強く不快感を表明したので、アクダー保健相は釈明に大わらわだった。
「メディアに発言が間違って伝えられてしまった」と弁解していたようだが、真相はどうなんだろう? いずれにせよ、医療制度の改革を推し進めて評価の高いアクダー保健相は、罷免も更迭もされなかった。
他のイスラム圏では、“豚インフルエンザ”に世情が騒然となっていたようだが、トルコでは、イスタンブール市内の大きなスーパーマーケットで売られている豚肉加工品が、おそらく店側の自粛により、しばらく姿を隠していた程度で大した騒ぎにもなっていなかった。
アクダー保健相も、イスラム的な与党AKP生え抜きのメンバーで敬虔なムスリム。夫人はしっかりスカーフを被っている。でも、“豚インフルエンザ”の一件では、医学博士として、自身の見解を明らかにしたのだろう。
エルドアン首相にしても、昨年、酒やタバコの税率が引き上げられた際、「タバコは吸わなければ良い。酒も少しにすれば良い」と発言して、イスラム化を恐れる左派ばかりか、一部の“非常に敬虔なムスリム”からも批判されていた。
ご存知のように、タバコが新大陸からもたらされる以前に記されたコーランには、酒の禁忌は明らかされていても、タバコについては何の規定もない。だから、教義の厳密な解釈に基づけば、タバコを少しにして、酒は飲むなと言うべきところだった。
しかし、トルコでは、「アッラーが酒を禁じられたのは、それが健康に悪いからです」という近代的(?)な解釈が広まっていて、「だから、少し飲む分には良い」と言う鈍らなムスリムもいれば、「それなら、タバコもいけないはずだ」とする真面目なムスリムもいる。(そんなこと言ったら、脂肪も糖分も運動不足もいけないはずだが・・)
導師養成学校の出身で、イスラムの教義についても深く学んでいるはずのエルドアン首相にも、一般と同じような「健康に悪いから・・・」という発想があるのだろうか? (エルドアン首相が、脂肪や糖分、運動不足にも充分留意しているのは確実だが・・)
かなりイスラム的と言われているザマン紙を読んでいて、その教義解釈に少々驚かされたこともある。ちょっと正確には覚えていないが、宗教の質疑応答コーナーに、以下のような読者の問いが寄せられた。
「市販されている一部の薬品や化粧品に、豚から得られた物質も使われている可能性があると聞いていますが問題はないでしょうか?」
これに対して、イスラムの導師は次のように答えていた。
「豚から得られた物質が使われているという確証があるのなら、その薬品や化粧品を使用するのは止めるべきでしょう。しかし、一部に使われている可能性があるかもしれないと言うのであれば、貴方が購入した製品に使われている確証はないのだから、使用しても問題はありません」
これならば、一部の製品に“豚から得られる酵素”が使用されていたという調味料も問題にはならなかっただろう。
ところで、私は暇があるから、こんなことをくどくど考えているけれど、忙しい人たちにとっては、どうでも良い話に違いない。
世俗化云々にしても、世俗化されていないのは、「ああでもない、こうでもない」と余計なことを考えている人たちの頭の中だけで、トルコの世間はとうの昔から世俗化していたような気もする。