メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコの医療問題?

先々週、旧居の大家マリアさんが熱を出して3日ほど寝込んでしまいました。その際に、リンパ腺か何かが腫れたらしく、念の為、病状が落ち着いてから、その辺りでは評判が良いアルメニア系の病院へ行ったところ、レントゲンやら採血やら色んな項目で検査を受け、結果は翌日明らかになると言われたそうです。

私も検査結果が気になったから、翌日の夕方、マリアさんのところへ電話を入れると、本人が出て、わりと力のある声で、「検査の結果、血液が減っている為、輸血を受けなければならないそうだよ。また明日、もう一度検査すると言ってるがね、暫く入院しなければならないかもしれないよ」と言うので、私は驚いて問い返しました。

「しかし、マリアさん、今はベットから起き上がれないような状態じゃないでしょ?」
「そう、ちゃんと立っているよ。自分じゃそれほど具合が悪いとも思えないけれど、なにしろ体の中に血が残っていないと言うんだよ。私の血は何処へ行ってしまったんだろうねえ?」
「ちょっと待って下さい。それはどう考えてもおかしい。輸血なんていうのは、かなり急を要する状態じゃなければしないはずです」
「私もそう思うよ。だけど医者がそう言うんだから」
「でも、輸血するのは変でしょう。それだけは止めた方が良いと思います」
「そうだね。他の医者にも相談してみるよ」

その翌日は、少し心配になったこともあり、夕方、旧居に寄ってみたところ、入口のところでマリアさん本人が、元気な様子で私を迎え入れてくれました。「なんだ、元気そうじゃないですか?」と言ったら、「私はもう病気じゃない。完全に回復してしまったよ。それなのに、医者が私のことを病人にしようとしているんだ」と大きな声で怒ったように言い、それから、その日病院であったことを、入口のところに立ったまま、興奮のあまり手を振り上げたりしながら説明し始めたのです。

私は、輸血をしなければならないような病人がこんなに興奮すれば、そのうち泡を吹いてひっくり返ってしまうのではないかと恐れ、娘のスザンナさんを促して、先ずはマリアさんに座ってもらい、自分も腰掛けたうえで、落ち着いて話すことにしました。

彼女たちの話によれば、医者は50歳ぐらいのアルメニア人女性であり、どういう経緯でそれを聞き出したのか解らないけれど、「一度も結婚したことがない」という変わった女なんだそうです。

この日も医者は、マリアさんへ輸血の必要性を説きながら、「あなたフラフラしませんか? 眩暈がするでしょう?」などと、マリアさんが元気であっては困るのかのように、執拗に問い質したといいます。

私はこの話を聞いて、昔観たトルコのコメディ映画を思い出してしまいました。

有名な喜劇俳優ケマル・スナルが主演した1979年の作品「勇気ある臆病者」という映画がそれで、スナル氏が演じるミュラヒムという青年が病院へ検査結果を聞きに行くと、医者は別の“ミュラヒム”のカルテを見ながら、青年の余命が6ヵ月であることを宣告。ミュラヒム青年がしょんぼりと肩を落としながら診察室を後にしたら、そこへ、ミュラヒムというよぼよぼの老人が息も絶え絶えに担ぎ込まれて来ます。

ところが、その医者、今度はミュラヒム青年のカルテを手にして、「ミュラヒムさん、貴方は素晴らしい健康体です。これから100年でも生きるでしょう」と伝えたものの、ミュラヒム老人はその場で絶命。狼狽した医者は老人を揺さぶりながら、「貴方は健康であることになっているんです。生きなければなりません」と絶叫。「これは医学に対する裏切りだ」と頭を抱えてしまうという展開。

マリアさん母娘に、「それって、ケマル・スナルの映画みたいな話じゃないでしょうね?」と水を向けたところ、二人ともこの映画のことは知らない様子。それで、上記の話を演技を交えて大袈裟に話して聞かせたら、二人して大笑い。娘のスザンナさんは、もともと発作的に笑い出す癖があるけれど、この時も発作が起こってしまい、笑い転げて椅子から落ちてしまうんじゃないかというような有様で、私は思わず、『俺はいったい何しに来たんだ? 病気のお見舞いじゃなかったのか?』と心内で自問してしまいました。

結局、マリアさんは入院も輸血も拒否してことなきを得ましたが、トルコでは、必要もないのに手術を施したりして、高額の治療費をせしめようとする医者が多いと専らの評判です。

わけても、帝王切開の多さは特筆されるべきかもしれません。トルコで通常分娩と言ったら、それは帝王切開のことじゃないかと思ってしまうほどです。責任取って腹切る男が少ない代わりに、女性は直ぐに腹を切らされてしまうのでしょうか。

しかし、不必要な治療が横行している背景には、医者ばかりでなく、一般の人々の問題もあるはずです。我慢と辛抱が大嫌いなトルコの人たちは、ちょっとした風邪でも大騒ぎして、直ぐに病院へ行くから、何処の病院も大混雑。直ぐに症状が軽減しないと医者を“やぶ”呼ばわりする患者も多く、医者は強い薬をどんどん処方するから、何処の薬局も大繁盛。これでは、医者と病院ばかりを糾弾したところで、なかなか事態は改善されないかもしれません。