メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

イズミルの冬の思い出

今年の日本は例年にない暖冬だそうですが、イスタンブールでも薄気味悪いほどの暖かい冬が続いています。先週はちょっと雪がちらつく日もあったけれど、今日はまた随分と暖かく、我が家自慢のスチーム暖房も全く出番がありません。おそらく、トルコで迎えた最も暖かい冬になるのではないでしょうか。

91年に初めてトルコへやってきて、温暖なエーゲ海地方のイズミルで一年を過ごしましたが、その暖かいイズミルの冬でさえ、今年のイスタンブールほどではなかったかもしれません。

というより、却って中途半端に暖かいイズミルでは、冬の間、もっと寒い思いをさせられました。温暖なイズミルでは、冬の備えが甘く、寝起きしていた学生寮の暖房もお粗末なものだったからです。

その冬、学生寮の“二段ベットを三つ並べた6人部屋”には、電熱線がむき出しになっているヒーターが一つあっただけで、我々寮生は晩になると、よくヒーターの上に鍋を乗っけて、インスタントのスープを作ったりしました。

トルコのスーパーでも売っている“クノール”の野菜スープやらチキン・スープの素を適当に混ぜ合わせ、ヒーターの上でゆっくり煮立たせれば、美味しいスープが出来上がります。

それを、銘々がスプーンを持ってヒーターの周りに集まり、鍋から直に掬ってすするわけです。皆、一様に背を丸めながら鍋に向かい、「寒い冬には暖かいスープが一番だね」とか「今日は野菜スープの素を入れなかったんじゃないのか? やっぱり何種類か混ぜた方が美味しくなるよ」といったような年寄りくさい会話を交わしたものでした。

電熱線むき出しのヒーターは寒かったけれど、そうやって鍋を囲むと、実に暖かな雰囲気が醸し出され、その和やかさは今もって忘れることができません。

しかし、この電熱線むき出しヒーターのお陰で危うく火事になりかけたこともあります。

ある晩、真中のベットの下段に寝ていた私がふと目を覚ますと、隣のベットの枕元がボオッと明るくなっています。寝ぼけ眼で『何だろう?』と思いながら見ているうちに、『あっ! いかん。何かが燃えている』と気がつき、ベットから飛び起きて、良く見れば、ヒーターの上で下着のシャツが一枚燃えているのです。

私はすかさず近くにあった棒切れで燃えているシャツをすくい上げ、「ヤングン(火事)! ヤングン!」と叫びながら、そのまま部屋を出てシャワー室へ直行、燃えるシャツに水を掛けて火を消しとめました。

それから、『我ながら実に適切な処置であった』と意気揚々に部屋へ引き上げたところ、部屋の連中も皆起き上がっていて、「おい、マコトが叫んでいるの聞いたかよ。“ヤングン! ヤングン!” ヤングンだなんて可笑しいったらありゃしない」などと失礼なことを話しています。

「だってあれは、ヤングン(火事)だろ?」と言い返したら、「あれが火事なものか。シャツが一枚燃えていただけじゃないか」と皆して愉快そうに笑うばかり。

この連中、震度2ぐらいの僅かな揺れでも、大騒ぎして外へ飛び出すくせに、本当の危機に際しては至って平然としていました。