去年(2000年)は、就労ビザ取得のため、4回も北キプロス共和国(トルコだけが承認している)へ足を運ぶはめになった。
北キプロスは住民もトルコ人なら、通貨もトルコ・リラ。トルコから市外局番で電話が掛けられるとあって、ほとんどトルコの国内旅行みたいな感じである。
それはともかく、イスタンブールからキプロス島の空港に降りたって、まず腹立たしいのは市内までバスの便がないのである。
タクシーに一人で高い料金払って乗るのは癪にさわるので、なんとか二人同乗者を見つけて三人の相乗りで利用していた。
ところが3度目のキプロス参りでは、空港でどうしても相棒が見つからない。
それで、途中からヒッチハイクでもしてやろうと、市内の方へ向かって歩き出したところ、いくらも行かないうちに、同様に市内へ行こうとしている二人連れと合流した。
一人は学生でアンカラの出身、もう一人は40才ぐらい、南東部のビトゥリスからビジネスの関係で度々キプロスへ来るそうだ。
スラブ系のような風貌だったが、ビトゥリスならまずはクルド人だろうと推量した。
しばらく三人で歩いていると、ライトバンが止まり市内まで送ってくれると言う。
車内にはハンドルを握っている中年男だけで、後ろの座席に置いてあった荷物を片付けてもらって早速乗り込んだ。
この中年男は地元の人、市内の工事現場で監督をしているらしい。えらくおしゃべりな男で、政治やら経済の話題を次々持ち出しては一人で話し続けていた。
そのうちクルド人の問題に話しが及び、「トルコ政府のやっていることは生ぬるい、クルド人の主張を認めてはいけない」というような持論をまくしたてる。
私はビトゥリス出身の男の反応が気になったが、たまに相槌をうったりしながらおとなしく話を聞いていた。
車がそろそろ目的地に近づいたところで、男は道端を行く数人の人夫達の脇へ車を寄せ、徐行しながら何事か命令しているようだった。
それから私達に向かって「うちで使っている人夫なんですよ。皆トルコ南東部の出身です」と説明した。
すると、ビトゥリスの男はちょっと身を乗り出して「えっ、南東部のどこですか」と訊く。男がさも嫌そうな感じで「どこだか知りませんよ。皆クルド人でさあ」と答えると、ビトゥリスの男はきっぱりとした言い方で「私もクルド人なんだよ」と切り返した。
一瞬の沈黙の後、誰が口火を切ったともなく皆で大爆笑。キプロスの男もビトゥリスもゲラゲラ笑っている。
キプロスは笑いながら「いやー、私もあなたがクルド人かも知れないなとは思っていたんですよ。言葉になまりがあるでしょう」。ビトゥリスも「へえーっ、私のトルコ語がなまっているとは知らなかったな」と言いながら笑っていた。
車が目的地に着き、お互い握手を交わして別れる時にも、大いに笑った感じがまだ残っているようだった。
実際あの場面では、笑うより他に場の繕いようがなかっただろう。それにしても、よくあんな風に直ぐ笑えるものだと感心したくなる。トルコではこんなことが結構あるので皆さんコツを心得ているのかも知れない。