メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコへの外圧

メルケル首相のトルコ訪問を前にして、トルコの知識人ら100名が連名でメルケル首相へ手紙を出していたことが話題になっていた。
手紙で100名の知識人は、エルドアン大統領とダヴトオウル首相がジャーナリズムを弾圧するなど、EUが定めた人権を侵していると非難したうえで、選挙を控えた今、メルケル首相がトルコを訪問すれば、エルドアン大統領らを喜ばせる可能性があるため、自分たちは不快感を抱いていると明らかにし、会談でこれを議題に取り上げて欲しいと要請している。
エルドアン大統領を始めとする政権側は、もちろんこれに猛烈な反発を見せているし、中立と思われる知識人の中からも、外圧を期待するのは良くないという声が出ている。
しかし、反エルドアン派の知識人たちが、こういった外圧を期待するのは、今に始まったことじゃないように思える。エルドアン大統領に対するネガティブ・キャンペーンは、国内のメディアばかりでなく、国外のメディアに向けても繰り広げられていた。
トルコへ圧力を加えたい国々は、当然、これを利用している。こうして、トルコの国際的な評価は下がる一方になってしまう。非常に残念だとしか言いようがない。
さらに、一部の知識人は、テロを続けるPKKを擁護する発言まで惜しまないのだから、これは大きな問題だろう。「クルディスタンは独立すれば良い」とまで言う知識人もいる。
そういう知識人は、クルディスタンさえ手放せば、トルコが外圧から救われると考えているのかもしれない。でも、それを認めたら、イスタンブールまで全て中東の泥沼へ引きずり込まれてしまうような気がする。
また、クルドの人たちにとっても、外圧によりトルコから切り離されることは果たして独立と言えるのだろうか。オスマン帝国から、そうやって独立させられた国々は、その多くが不幸な状況に陥っている。分けても、シリアとイラクの独立と建国、その後の歴史とはいったい何だったのか問いたい。まるで積み木崩しのように弄ばれてしまった。
一方、トルコ共和国には外圧を跳ね返して建国した歴史がある。崩壊寸前だったオスマン帝国の議会で、ケマル・パシャ(後のアタテュルク)ら議員は、残された国土を守り抜くと国民に誓い宣言した。
ところが、皇帝は西欧列強に突きつけられたセーヴル条約を認めてしまう。国土の大半が分割されるこの条約に断固反対したケマル・パシャらは、オスマン帝国を見限り、新国家の樹立へ向かう。そして、救国戦線に勝利して列強を撃退、共和国を建国する。
ケマル・パシャは、ローザンヌ条約では譲歩して、国民に誓った国土の全域を守れなかったかもしれないが、その宣言に示された強い意志が共和国建国の礎となったそうだ。それに先立つチャナッカレ戦争では、ケマル・パシャも自ら前線に立ち、「一歩も引くな」と兵卒らを叱咤激励したと伝えられている。
現時点で、トルコにとって今の国境は、まさしく一歩も引けない線と言えるのではないかと思う。
ただその為には、クルドの人たちの民族意識も尊重しなければならないから、トルコ共和国は故オザル大統領の時代より、紆余曲折を経て、民族の問題で修正を図ってきた。その集大成が「クルド和平プロセス」であるような気がする。
共和国が再び90年代のような態勢に戻ってしまったら、今度はPKKでなく、クルド人の民衆を相手に戦わなければならなくなる。それは破局に違いない。
もっとも、今、CHPが政権に就いたとしても、トルコが90年代に逆戻りする心配はないだろうし、分離独立に譲歩するなんて尚更あり得ないはずだ。
欧米にも、そこまで圧力を加えて、無理に独立させるような意志はないらしい。AKP政権寄りのある識者は、既にPKKへ欧米からの支援は絶たれたと論じていた。中東の安定には、まずトルコの安定が欠かせないからだという。
しかし、中東諸国との関係、とくに石油資源等に関しては、今後も様々な圧力があるのではないかと言われている。こちらは、あんまり突っ張っても、第二次大戦前の日本みたいになってしまいそうで恐ろしい。場合によっては、譲歩も必要じゃないだろうか。
石油資源がある限り、それは有り得ないそうだけれど、いつの日か、中東への介入・干渉・外圧、全てがなくなり、恒久的な平和が訪れれば、その時は、州制度どころか、独立でも何でも自由に議論できるようになると思う。

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