メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

「韓国とトルコ~国家の正統性」

《2013年7月13日付け記事の再録》

2013年7月、ボズジャ島でキムさんと長話した。20年来の友人だけれど、かつて、あれほど様々な話を聞いたことはなかったように思う。もっと韓国語が解っていた時に聞いておけば良かった。
話は、韓国の政治や歴史に至るまで多岐に亘ったが、北朝鮮との関係について、「名分からすれば、北朝鮮のほうが国家の正統性があって、はるかに正しい」と断じたので驚いた。
その理由として、大よそ以下のような説明があった。
韓国は、日本の敗戦によって解放されたのであって、自力で独立したわけじゃない。独立してからも、親日派を排除することができなかった。何故なら、教育のある有能な人たちは皆親日派だった。その後の発展にも、絶えずアメリカや日本の影響が見られた。
北朝鮮に影響を及ぼしたのは、過去の殖民統治とは関係のないソビエト中共である。“漢江の奇跡”を主導した朴政権は、特にクーデターという手段で政権についたから、全く正統性が認められない。等々・・・
しかし、それを言うのであれば、朝鮮の李成桂も、高麗をクーデターで倒して、王朝を樹立したのではなかっただろうか。もちろん、キムさんは、そんなこと百も承知で論じたに違いないけれど・・・。

中国の脅威に対して、韓国は日本と連帯しなければならないとしながら、「名分をたださずにはいられない我々の気質を理解してほしい」と話していた。
こうして名分・正統性を突き詰めて行くと、韓国は神話の時代から同じ王朝が続いていなければならなくなってしまう。何となく、日本の皇室の正統性を羨ましく思っているような気がした。
実際、そのお陰なのか、私たち日本人の多くは、“国家の正統性”なんてものを、余り突き詰めて考えたりしないだろう。これは、かなり幸せな状態であるかもしれない。
韓国に居た頃、“正統性(정통성)”という言葉を頻繁に聞いた。

トルコでは、やはり“meşruiyet(正統性)”が良く話題になる。

トルコも、クーデターに近いやり方でオスマン帝国を倒して共和国を樹立させたから、正統性の確立には苦労したようだ。アタテュルクが霊廟に祀られ、徹底した礼讃教育が行われているのも、その為じゃないかと思う。
非常に敬虔なムスリムで、強固なAKP支持者の友人は、小学生の頃、教科書に「アタテュルクは死なない」と書かれていた為、疑問に感じて、やはり敬虔なムスリムである父親に、その部分を示したところ、父親は彼の手から教科書を取り上げ、「こんな教科書を読んではいかん」と言って、その教科書をずたずたに破り捨ててしまったそうだ。
しかし、彼は今、アタテュルクを“建国の父”として認めている。「もう少し大きくなっていれば、“アタテュルクは死なない”というのは、“アタテュルクが樹立した共和国は不滅だ”という意味に理解できただろう。あれは教育のやり方が間違っていた」と言うのである。
過剰な礼賛教育は既に不要と主張しながら、トルコ共和国の正統性までただすつもりはないようだ。「“私たちのアタテュルク”を、まるで自分たちだけのアタテュルクにしてしまうのは良くない」と言い、次のように説明していた。
「アタテュルクも人間だから間違いはあったけれど、私たちはもう、その間違い(例えば飲酒?)については口を閉ざして何も言わないことにした。私たちは、アタテュルクの功績だけを称えている。ところが、彼らはアタテュルクの間違いまで喧伝しようとする。そこが違う」
こういう所は、韓国の人たちに比べると遥かに柔軟であるような気がする。

merhaba-ajansi.hatenablog.com