メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

クルド系政党HDP

クルド系政党HDPのセラハッティン・デミルタシュ党首らが逮捕されたのは、日本でも大きく報道されたようだ。
ある識者は、今回の逮捕を、3段階に分けて進められたHDP対策の3段階目と分析している。まず、9月にHDP系の民選市長24人の解任があり、それから10月末になって、民選のディヤルバクル県知事ギュルタン・クシャナク氏が逮捕された。
当局は、これによって、地域民衆の反応を見ていたのではないかという。HDPは、既に民衆の支持を失っていると思われていたが、それでも自分たちの選んだ県知事が逮捕された場合、反発を見せる可能性もあった。
しかし、HDPが煽ったにも拘わらず、大規模な抗議活動等はなかったため、今回の逮捕に踏み切ったらしい。
昨年6月の国政選挙でHDPが躍進したのは、多くの人々が問題の政治的な解決を求めたからであり、その後、武力闘争を再開させたPKKとの関係を断とうとしなかったHDPに人々は落胆し、それは11月の再選挙にも反映されたと言われている。
また、AKP政権党を支持するクルド人によれば、ディヤルバクルなどHDPが大勝したクルディスタン地域で、デミルタシュ氏やクシャナク氏に心情的な強い親近感を懐く人は、それほどいないそうである。
デミルタシュ、クシャナクの両氏は、エラズー県の出身であり、2015年11月の選挙結果を見ると、HDPはエラズー県で、AKPは言うまでもなく、トルコ民族主義政党のMHPにも及ばず、第3党に甘んじている。
今回共に逮捕されているHDPの重鎮イドゥリス・バルケン氏の出身地ビンギョル県でも、HDPは、AKPに大差をつけられて第2党だった。やはり逮捕されたフィゲン・ユクセクダー副党首は、アダナ県の出身で、エスニック的にもクルド人ではないらしい。アダナ県でHDPは、CHPにも敗れて第4党である。
HDPが大勝したディヤルバクル県、バットマン県の出身で、AKP政権党の重鎮と言えるメフディ・エケル元農業相、メフメット・シムシェク現副首相が、クルド語を話すのに対して、上記のHDP議員らは、クルド語が殆ど話せないと言われている。(デミルタシュ氏はクルド語のザザ方言なら少し解るそうだ)
こうしてみると、HDPは果たして、ディヤルバクル等の核心的なクルディスタン地域に根差した政党だったのか、疑問に思えてしまう。
2014年に亡くなったクルド人の友人は、ディヤルバクル県の出身でクルド語を当たり前に話しながら、AKP政権を支持していた。この友人によれば、HDPの主要メンバーは、文化的にもクルディスタンの民衆からかけ離れていたという。
「ディヤルバクル県の人口の殆どは、自分のように熱心なスンニー派だが、HDPは左翼の政党であり、異様なほどアレヴィー派が多い。あれでどうやってディヤルバクル県で票を得ているのか不思議なくらいだ」と亡き友人は語っていた。
その時、友人がアレヴィー派として名を挙げていたHDPの主要メンバーは、アイセル・トゥールック氏(エラズー県出身)とセバハット・テュンジェル氏(マラティヤ県出身:マラティヤ県でHDPは第4党)だった。
トゥールック氏と同じくエラズー県の出身であるデミルタシュ氏とクシャナク氏にも、「アレヴィー派ではないのか?」という声が聞かれる。(ちなみに、PKKの最高幹部ジェミル・バユック氏もエラズー県の出身)
いずれにせよ、HDPやPKKが扇動してきた所謂“クルド問題”は、純粋な民族の問題とは言い難いような気がしてくる。

*アレヴィー派の問題について、エティエン・マフチュプヤン氏は、「アレヴィー派問題などというものはない。あるのは彼らを受け入れようとしないスンニー派の問題だ」と述べていた。↓