メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

経歴詐称

11年前の3月だったと思う。友人の紹介でメジディエキョイにある通訳斡旋エージェントの会社へ行って登録をさせてもらったことがある。
かなり大きなエージェントで、世界各国の言語を対象に手広く事業を営んでいるようだったが、当時、日本語の通訳はなかなか見つからなかったらしい。
私はまず社長室に通されて、やたらと丁重に扱われた後、女性の部長さんが用意して来た登録フォームの各欄に必要事項を記入することになった。
「通訳可能な言語」といった欄があって、「トルコ語~日本語」と書き込んだところ、「トルコ語は何処で学ばれましたか?」と部長さんに訊かれたので、「イズミルのエーゲ大学にある語学コースです」と答えたら、「それでは、そこに“エーゲ大学”と書いて下さい」と言われた。
「学部で学んだわけじゃないんですが・・・」と躊躇ったけれど、渋々言われた通りに書き込んだ。
それから、「トルコ語の他に何か解る言語は?」と訊かれ、「韓国語なら少し解りますが、通訳できるほどじゃありません」と答えたものの、これも「通訳可能な言語」として記入させられた挙句、実際は、ソウルの延世大学の付属機関で学んだだけなのに、まるで延世大学を卒業したかのようになってしまった。
この登録フォームには、日本の学歴を記入する欄もあった。そこに「高卒」と書いたら、部長さんは顔をひきつらせて、急によそよそしくなった。そして、これでは粉飾する余地もないと判断したのか、そのまま登録の手続きを済ませると、迎え入れた時とは、全く異なる態度で冷たく私を見送った。
トルコの社会は、学歴偏重が甚だしい。私は『この会社から仕事が来ることはないだろう』と完全に諦めながら帰途についた。

 ところが、その後、私は2回にわたって、この会社から呼び出されたのである。しかし、依頼はいずれも韓国語の通訳であり、その度に依頼を断りながら、次回は「日本語の通訳」で呼んでくれるようにお願いしたが、結局それっきりだった。
どうやら、私を呼び出した担当者は、登録フォームの情報に基づいてコンタクトを取るようだ。もちろん、フォームに私が日本人であることは明記されているけれど、高卒の日本人の日本語では、役に立たないと思われているのかもしれない。
それでは、何を基準に韓国語の方は役に立つと判断したのだろう? ひょっとして、フォームに「延世大学」と記されていたからなのか? 学歴偏重もここまで来たら何ともおめでたいような気がする。
しかも、1年ほど経って、私は他の通訳斡旋エージェントから派遣されて、この会社の仕事(日本語の通訳)を一度請け負ったのである。本当におめでたいとしか言いようがない。