1988年、ソウルの延世大学語学堂で韓国語を学んでいた頃、先生が教室に受講生名簿を置き忘れてしまったことがある。
私ら受講生がその名簿を開けてみると、数名の受講生の欄に赤い丸印が記されていた。
名簿を見ていた私たちの中に該当者はいなかったので、果たして赤丸のついている受講生の共通項は何だろうと言いながら皆で顔を見合わせた。
そのうち、誰からともなく「統一教会じゃないのか?」という声が上がったところ、そこへ先生が慌てて戻ってきた。
先生は「皆さん、見たでしょ?」と訊いて、私たちが頷いたら、それ以上秘密にしておくのは無理だと諦めたのか、赤丸の理由を説明してくれた。それは私たちが想像した通り、「統一教会の信者」だった。
当時、韓国で留学ビザを取得するためには、韓国人の保証人がいなければならなかったが、その保証人の氏名から統一教会と推定されたという。
どうやら、学校側も統一教会の動きには神経を尖らせていたようだ。他の語学学校では、信者の人たちが集まってしまったため、一般の受講生が来なくなったという事態も起きていたらしい。
それから歳月が過ぎ、1993~4年頃だったと思う。イスタンブールに居た私へ、当地で旅行代理店を経営していた韓国の人が「通訳して欲しい」と持ち掛けて来た。
「日本の世界日報のイスタンブール支局から呼ばれている」と言うけれど、話は英語で通じるはずだから「通訳」など必要ないだろう。要するに『統一教会の所へ一人で営業に行くのは不安だから付き合ってもらいたい』と言いたかったのである。
支局はタクシム広場近くの古いビルの二階にあり、扉を開けて顔を出したのが、つい数日前に出会ったばかりのトルコ人青年だったので、まずは驚かされた。
青年は日本語に堪能な上、「韓国語も勉強したい」と熱っぽく語っていたけれど、それは信仰に由来していたらしい。
支局長室に通されると、そこには文鮮明氏と韓鶴子氏夫妻の写真が掲げられていて、私に同行を求めた韓国の人がそれを見て一瞬身じろいだのはなかなか印象的だった。
この世界日報イスタンブール支局へ日本から出向していた支局長は、その後、UPI通信の東京支局長も歴任している。
何故、それが解ったのかと言えば、2010~11年頃だったか、私はイスタンブールで支局長氏の娘さんに会う機会があったからである。
あれにも非常に驚かされた。この世には不思議な出会いがあるものだと思った。