メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコ人はぬるいのが好き

クズルック村には温泉が湧き出ていて、宿泊できる施設もあり、イスタンブールからも湯治客がやって来る。

しかし、イスラム色の濃いイフラスという会社が施設を運営している為、湯治場一帯にはアルコールを提供する店も無く、日本の温泉とは大分違った雰囲気である。

5~6階建ての宿泊施設が軒を並べているところなどは、なんだか郊外にある団地のような感じだ。

各室にバスルームからキッチンまで備わっているアパートのようなこの施設を、湯治客は2日から2週間の単位で借りて宿泊する。ほとんどの利用者が家族連れで、長期に亘って滞在する家族も少なくない。

また、訪れる人達には敬虔なムスリムが多く、スカーフを被った女性がやたらと目につくのもここの特徴と言える。
全室のバスルームに温泉が供給されているくらいで、湧出量は豊富。イフラス社は施設の敷地内とそこから500メートル以内の地域で湧き出る温泉全ての利用権を持っていて、近所の住民が庭先を掘っていて温泉が湧き出て来たとしても、自分達だけで利用するのはともかく、それで営業してはならないそうだ。

しかし、イフラスの施設では湧き出て来る湯を使いきれず、そのまま流してしまっていることもあり、「どうせ捨てるのなら、うちにも回してくれ」と近所の住民が要求しているという話も聞いたことがある。
私も時々、施設内にある共同浴場を利用している。ここには直径が15mぐらいありそうな円形の大浴槽があり、水着で入浴するようになっているが、もちろん男女は別。トルコでは、男同士であってもフルチンになることは決してない。
源泉は90℃にもなるそうで、適当な温度に冷まして使っているそうだ。しかし、あれではどう考えても冷ましすぎだろう。

どうせなら、高温と低温で浴槽を別にしてくれたら良さそうなものだが、トルコの人達は、現状でも熱いと言っているくらいなんで、そうなると、もっとぬるいのができるだけかも知れない。
トルコではハマムと呼ばれる蒸し風呂が有名で、イスタンブールには創業何百年という歴史のあるハマムもある。

私はトルコに来る前、蒸し風呂というのだから、湯気がもうもうとして相当に熱い、日本で云う湿式サウナのようなものを想像していた。
それで初めてハマムに行った時、店の人が、腰巻用の布を渡しながら、「まあ、20~30分ぐらいが適当でしょう」なんて言うので、「良し、それぐらいは何とか頑張るぞ」と気合を入れて中に入ると、湯気がもうもうというほどでもなく、ちょっと蒸し暑い程度である。

「なんだこれは、これなら2~3時間ぐらいでも大丈夫そうだ」と思いながら、他の客達の真似をして、中央にある「ギョベックタシ(ヘソ石)」という温められた大理石の台に寝そべっていると、垢すり係のおっさんがやって来て、垢すりを勧める。

しかし、「綺麗なお姉さんならともかく、こんなおっさんに擦られたんじゃたまらない」と思って、申し出を断わり、尚しばらくのあいだ横になっていた。

ところが、いつまで経っても、薄っすらと汗が出て来るだけで、一向にカーッと熱くはなって来ない。

しょうがないので、隅の方へ行って、腕立て伏せをしたり、ヒンズースクワットをしてみたりすると、ようやく汗がダラダラと流れ落ちて来る。

それから、やおら体を洗い始めたのだが、洗い終わる頃には、熱気にむせ返っていて、荒い息をしながら逃げ出すように外へ出る始末。

低温でじっくりと温まった所為か、拭いても拭いても汗が吹き出て来る。冷たいコーラを持ってきてくれた店の人は、「だから、20~30分が良いところだと言ったでしょう」と、なにやら勝ち誇ったように笑っていた。
今でも、たまにハマムへ行くことはあるが、日本でもサウナでガーッと汗をかいて、冷水プールにドボーンというのが好きだった私には、どうもハマムはピンとこない。

イスタンブールにはフィンランド式のサウナもあるので、もっぱらこっちの方を利用している。

ところが、このサウナがまたぬるくて、ガーッといくには程遠い代物。こんなことにも国民性が出るのかどうか知らないが、過激な人達の多い韓国に行くと、このサウナがまた滅法熱いのである。

低温と高温とふたつあるところもあり、高温のほうに入ってみると、サーモスタットがいかれてんじゃないのかと思えるほど熱いことがあって、局所を濡れタオルで覆っておかなければ、とてもじゃないけど我慢できないような場合もある。

それでも、韓国の人達は、「アイゴー!」とか「オイフッ」、または「エッシ」などと気合を入れながら頑張るわけだ。

サウナの中で、もういい年のおっさんが、いきなり腕立て伏せを始めたりもする。これがトルコだと、サウナに来るような中年のオヤジ連中は、大概腹がブヨッと弛んでいて腕立て伏せどころではない。
イズミルに居た頃、ラマダンの最中に昼間からサウナに行った時のことである。私の隣で4~5人のトルコ人が楽しそうに雑談しているので、耳を傾けてみると、
「うーっ熱い、でもここを我慢して、出た後で冷たいビールを飲むと、これがたまらないのだなぁ」
「おい、聖なるラマダン月になんてことを言うんだ。おまえ地獄に落ちるぞ」
「へーっどうだい、地獄もこんなに熱いか行って見てやろうじゃないか」
これで一同爆笑。しかし、日本のサウナだってもっと熱いのである。地獄はずっと熱いに違いない。

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