ベルギーでトルコ人移民の3世として生まれたマヒヌル・ギョクタシュ氏は、ベルギーの一流大学を卒業してエリートコースを歩み、現在はトルコの家族社会扶助庁の長官として活躍している。
同様に、日本で生まれたクルド系トルコ人が栄達して活躍する姿を想像してみたい。トルコ語も日本語も満足に話せなくなっている例も見られるらしいが、しっかり勉強している子供たちもいるようだから、可能性は充分にあると思う。
しかし、ギョクタシュ氏の場合、祖父や父母が共にマーケットを営む大家族だったため、ベルギーの学校に通いながら、家族からトルコ語やトルコの文化を学ぶ機会も得られたのではないだろうか。
川口のクルド系トルコ人は、その多くが核家族で両親共稼ぎといった状況に置かれているかもしれない。そのため、両親から母語を受け継ぐ機会さえ得られず、日本語しか話せない子供たちもいるという。
そもそも、ギョクタシュ氏の家族が、政府間の協定に基づいて迎え入れられたのに対し、クルド系トルコ人の多くは、難民申請中という非常に不安定な状態で働かされてきた。
川口で現地取材した後、トルコで「Karihomen(仮放免)」という著作を出版したジャーナリストのイルファン・アクタン氏は、それを「埼玉という監獄」と言い表している。
私には川口まで出かける経済的な余裕もなく、現地の状況を全く見ていない。難民申請の手続き等々についても詳しく調べたわけじゃなかった。
難民申請中の仮放免という立場では、就労許可どころか保険も得られないという事実について、アクタン氏が自著を紹介している報道番組で確認したぐらいである。なんという怠慢だ。
難民申請中の人たちは労災など無い状態で働かされている。しかも、解体や産廃といった非常に危険を伴う業務に従事しているのである。これは「監獄」より酷い状態であるかもしれない。
2005年頃だったか、イスタンブールのカドゥキョイで買い物していたら、応対してくれた店員の中年女性に「日本人ですか?」と尋ねられた。話を聞くと、彼女の御主人(兄弟だったかもしれない)は出稼ぎに行った日本で事故死してしまったが、何の補償も得られなかったという。
おそらく、こういった悲劇は他にもあったのではないかと思う。
一方、クルド系トルコ人が当初より就労目的で日本へ渡って来たのも事実だろう。
2017年の4月、トルコから帰国する際にトランジットしたモスクワの空港で出会ったクルド系トルコ人と話して、彼らの目的が「出稼ぎ」であることが良く解った。現在のトルコに彼らが難民申請しなければならない状況は何処にもない。
これは、2004年、強制送還に抗議して国連大学前で座り込みを続けていたカザンキランさんも同様である。
しかし、私が驚いているのは、カザンキランさんの一件から20年を経た今も強制送還されないまま、働き続けている人たちがいる現状である。
ひょっとすると、難民申請中という「宙ぶらりんな状態」で働かされているのは、合法的な就労許可を与えた場合、適当に切り捨てるのが難しくなってしまうためではないかと疑いたくなる。
日本人がやりたがらない仕事を押し付けておいて、20年以上も法的な整備を怠ってきた理由は他にあるだろうか?
そのため、強制送還された方が彼らにとっても最善と言えるのではないかと考えたのである。
まあ、ここにも良く調べていなかったための勘違いがあって、強制送還ならば、当然、旅費は日本の政府が負担すると思い込んでいたけれど、実際は自費の場合もあるという。
幸い、トルコではPKKが解散宣言を出して、クルドの人たちを取り巻く状況はますます良くなってきている。
以下の「極東問題」という動画を観ると、川口のクルドの人たちの間にも「祖国へ帰ろう!」という機運が高まっているようだ。
この動画の中で、川口で解体に従事してきたクルドの人が「日本人の友達などいない。トルコ人には良い人もいるが、日本人にはいない」等々、日本に対する不満をぶちまけている場面がある。
果たして、難民支援活動をしてきた日本人とも友達にはなれなかったのか?
その辺りは良く解らないが、難民支援活動をしている人たちにとって、トルコはクルド人を迫害している悪辣な国であるに違いない。当然、日本よりも下に見ているのだろう。クルド人は、その下等な国の可哀そうな人たちなのである。
そう思われて、クルドの人たちの気分が良かろうはずもない。自分たちも下に見られていることになるからだ。
アナトリアとメソポタミアは、人類最古の文明が栄えた地域である。その文明は東ローマ帝国からオスマン帝国へ、そして現在のトルコ共和国へ受け継がれ、人々は様々な民族がどのように共生して行けるのか、その術を心得ているように思う。
まさしく、今話題になっている多様性と共生のお手本のような国なのである。日本のような島国の住人が、どうやって、この偉大な文明の継承者を見下すことができるのか・・・。