メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

「オスマンの平和」は蘇るか?

「アラブ人たちは我々を背後から刺した!」。私のトルコ生活が始まった1991年以来、この言葉をトルコの友人たちから何度聞かされたことだろう。

これはオスマン帝国時代の1916年に始まった「アラブの反乱」に由来する言葉で、私も「確かにそうだ」と納得しながら友人たちの話を聞いていた。そこには映画「アラビアのロレンス」の印象も作用していたかもしれない。

現代の国際関係が話題になれば、「トルコは四方を敵に囲まれている」なんて言葉が必ずと言って良いほど登場し、これにも強い説得力が感じられた。

しかし、先日、エルドアン大統領は、AKP党内の演説で、この「アラブ人たちは我々を背後から刺した!」を槍玉に上げ、これを言い出した人たちも糾弾している。

この言葉により、アラブへの敵愾心が煽られ、アラブ諸国との経済関係まで悪影響を受けて、トルコ共和国は80年を失ってしまったと言うのである。

これに先立ち、7月、エルドアン大統領は「トルコ人・クルド人・アラブ人」の連帯を強く訴えながら、トルコ国外のクルド人・アラブ人も同胞であると述べていた。

確かに、オスマン帝国の時代、イスラム教徒はエスニックルーツの如何に拘わらず、皆、同胞だった。ところが、「トルコ民族の国」として建国されたトルコ共和国は、長い間、オスマン帝国の後継者であることも否定してきた。

これに対して、エルドアン大統領は、その「共和国の過ち」を是正するかのように発言しているけれど、共和国は歴史的な正統性を確立するまで、前体制のオスマン帝国を否定しなければならなかったのだろう。

また、共和国が「オスマン帝国の後継者」であると言い出したのは、エルドアン大統領が初めてではなく、故オザル大統領ではなかったのか。

いずれにせよ、多少言い過ぎた所はあるかもしれないが、エルドアン大統領の演説には、オスマン帝国時代の平和共存を呼び戻す願いが込められていたのではないかと思う。

実際、僅か数年の間に、中東の情勢は大きく変わり、今やイラクもシリアもトルコへ友好的な姿勢を見せている。アルメニアとの国交正常化も実現間近である。「四方を敵に囲まれている」は全くの死語になってしまった。

もっとも、民衆レベルでは、「オスマン帝国時代の絆」が断ち切れることなく続いていたに違いない。20年~30年前でも、トルコの人がシリアやイラクを訪れると非常に歓迎されたという。

そして、イスタンブールは、おそらくビザンチン帝国の時代から、バルカン半島と中東地域の中心であり、多くの人々を引き付けて来た。トルコ共和国は、そのイスタンブールを帝都とした偉大な帝国の後継者であり、今、また「オスマンの平和」を蘇らせようとしている。

この「偉大な共和国」の存在を決して軽んじてはならないと思う。

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