メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

多極化世界におけるトルコ

アレクサンドル・ドゥーギン氏は、2019年の5月以来、6回にわたってアイドゥンルック紙へ論説を寄稿しているようだ。

その第1回目となる2019年5月27日の「多極化世界におけるトルコ」という論説は、世界の多極化とトルコに対する考察が非常に興味深く思えた。

そのため、自分の弱い頭を整理する意味もあって、以下のように全文を拙訳してみた。

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2019年5月27日のアイドゥンルック紙よりアレクサンドル・ドゥーギン氏の論説

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今日、ロシアも先駆者となっている多極化世界の認識は、全ての民族、分けてもトルコの人々と密接に関わっている。多極化とその地政学は、21世紀の戦略的な思考の基本的なテーマである。

多極化は形成されつつある段階にあり、その過程は未だ完了していない。歴史上の全ての傾向と同様に多極化も達成されるかもしれないが、未熟なまま終わるかもしれない。運命ではなく、一つの可能性なのである。達成されるかどうかは、全ての国々と人々に係っている。

ウラジミール・プーチンの時代のロシアは、多極化世界の構築を基本に据えた政策を展開してきた。この戦略は、ユーラシア主義の反映と言える。

ユーラシア主義も21世紀になって変化が見られ、新たな認識を必要としている。より明確に言うならば、ユーラシア主義も多極化の中で、その意義を得ようとしている。そのため、ここでは、この問題について述べたいと思う。

<多極化以前のシステム>

多極化は原則的に以下の傾向とは異なっている。

*全ての異なる国民国家が完全な主権に基づいていたウェストファリア条約による体制

*冷戦時代の二極構造

ソビエト社会主義陣営の崩壊後に出現した一極化された世界

ウェストファリア条約による体制は、1648年以降、各国民国家を基本に構築された。しかし、20世紀に至り、第一次世界大戦終結と共に、ヨーロッパもそうだが、特に世界の他の地域において、各々に全く異なる国民国家が一国だけで自国の主権を守るのは不可能であることが明らかになった。

これにより、まず3つのブロックが形成される。つまり、資本主義、社会主義、そしてファシズムである。これが頂点に達したのは第二次世界大戦であり、枢軸国の敗北により、二極構造の世界が出現する。

この世界では、2つのスーパーパワーである米国とソビエトだけが、本当の意味で主権を持つことが出来た。他の国々は、いずれの陣営かに加わらなければならなかった。これにより、トルコはNATOに加盟し、資本主義西欧の側に属することになる。

グローバル化の始まり>

ソビエト、そしてワルシャワ条約機構の崩壊後、一極化された世界の形成により、西欧は世界で唯一の主権的な力を持つに至る。

これは、支配的なイデオロギーとしてのグローバル化の始まりとなった。フクヤマは「歴史の終わり」、つまり西欧が、世界の他の国々に対して完全な勝利を得たという論説を明らかにする。

真の主権は、米国とその同盟国に独占されたが、間もなく、これに対するプロセスも姿を現す。中国とインドによる異なる文明としての発展、イスラム世界による西欧の完全なヘゲモニーの拒否、等々である。

米国と同盟国のイスラム国家群に対する戦争の発端となった911テロ事件以降、中国の目覚ましい発展、そして、プーチンのロシアにおける独立した政策の展開と国の主権が新たに築かれたことは、多極化のための前提条件となった。こうして、中国、ロシア、イスラム諸国は一極化に対して立ち向かうのである。

ハンチントンは、事態の推移を90年代の初めに「文明の衝突」として予見した。これは2000年代に入って、一つの事象として認められる。

しかし、それは各々の文明の間の衝突とはならなかった。その衝突は徐々に、西欧のヘゲモニーと一極化された世界秩序に対して、全ての文明が共存できる多極化世界の間で明らかになり始めたのである。

<文明の概念>

文明の概念は、多極化を説き明かすための最も重要な鍵である。これはウェストファリア条約における国民国家でもなければ、二極構造の世界における政治的なイデオロギー、クローバル主義者の理論である世界国家でもない。

文明は、それに含まれる広いエリアである。ロシアにとってはユーラシアであり、中国にとっては、国そのものと隣国から成る地域である。

イスラム世界も多くの異なる領域(シーア派・テュルク・アラブ・マレー等々)を含んでいるが一つの文明である。

これに、悠久の国家の伝統と文化の蓄積によるトルコの文明も加えることができる。

私たちの両国では、狭い意味でユーラシアの構想と言えるかもしれない。ロシアにおいては周囲の大きな領域を統合することであり、トルコにおいてはテュルク世界を一つにまとめることであるように・・。

大ユーラシアはロシアと中国の共同による戦略であり、モスクワ・アンカラテヘランというユーラシアのトライアングルは、その必須条件である。

中国の一帯一路構想はさらに広く、ヨーロッパも含む全ユーラシア大陸の経済と通交の統合も含まれている。

しかし、この多極化構想とユーラシア主義の異なる類型は、西欧の独占的なヘゲモニーと彼らの価値観の普遍性を拒否している。このため、多極化の全ての構想は、一極化とリベラル・グローバリズムに対抗するものとなっている。

中国、ロシア、トルコ、インド、イスラムの各文化は、それぞれの相違点によって独自性が明らかであり、西欧の個人主義やハイパーキャピタリズム、LGBTが高まりを見せる西欧の社会とは峻別されている。これも多極化の基本的な関係性による。

<西欧は二つに分裂した>

西欧とグローバル主義者らは、西欧でもグローバル化へのプロテストが日を追って増しているにも拘わらず、戦いを諦めようとしていない。

グローバル主義者らに対する反発は、トランプとヨーロッパのポピュリズム(右派と左派)に例を見ることができる。そのため、ハンチントンがこの問題を様式化したように、全てを「West against the Rest(その他に対する西欧)」に二元化することは既に不可能である。

西欧は自身が二つに分裂した状態である。一方が一極化とグローバル化に執着し続ける中、もう一方は、西欧を他と同じように文明の一つであると見て、人工的な合成を妨げ、アイデンティティーと文化を守ろうとしている。

この分析が示すように、多極化世界への傾向は強まっており、一極化は未だ非常に強力だが、少しずつ崩れているのである。

一極化とグローバル化の代表的な存在は、カラー革命のスポンサーである億万長者のジョージ・ソロス、米国人の大半が拒否した古典的なリベラル・グローバリズムイデオロギー固執してトランプに無残な敗北を喫したヒラリー・クリントンのような人物である。

<トルコの位置>

今、明確にしなければならないのは、トルコが多極化世界の何処にいるかだろう。この問いの答えは未だ得られていない。

トルコはNATOの加盟国であり、西欧の戦略的な構造の一要素となっている。これは冷戦時代の残滓であり怠惰と言える。

しかし、これは既に有効性を失っている。ロシアはトルコにとって脅威ではなくなっているが、反対に、米国はトルコが新たに主権を構築しようとする展開を不快に感じている。

また、トルコの社会は、リベラル思想が、トルコの国家思想と歴史的な宗教の価値観にそぐわないことを明確に見ている。これにより、次のように論じることが可能だろう。トルコの位置は、多極化世界に与する者たちの陣営にあると・・。

<多極化世界におけるトルコの役割>

人口の大半がイスラム教徒であるトルコだが、アラブやイランの文化とは異なる。

トルコは独自の文明的な領域として、いくつかの伝統をその成り立ちの中に集めている。原初のギョクテュルク汗国からギョクオルダに至るテュルク・トゥラン国家、イスラムのカリフ、ビザンチン帝国、オスマン帝国、ケマリストの革命、こういった伝統の交差がトルコを造ったのである。

このため、多極化の中でトルコは非常に重要な役割を果たすことができる。

その一部はユーラシアの文明に、一部はイスラム文明に、そして一部はヨーロッパ文明に属しているのである。これはトルコに広範囲な可能性をもたらしている。

ユーラシアの連帯とイスラム世界に筆頭的な地位を得るチャンスが与えられているのである。

これと共に、トルコとロシアの連帯は、西欧に対してトルコの立場を強いものにする。シリア危機におけるロシアとのコーディネーションは、両国が共同で行動した時に得られる成功を見せつけた。

ユーラシアの経済的な視点からもたらされた機会もトルコにとって非常に重要である。多極化世界はトルコのために、あらゆる意味で安全保障と言える。

******以下原文

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