メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ロシアと欧米の戦争

ロシア軍がウクライナ東部のソレダルを制圧したニュースは、トルコの様々な時事解説番組でも取り上げられているけれど、見た限りでは、「戦略的にそれほど大きな成果とは言えない」と論じる識者が多いようである。

以下のYouTube動画で女性キャスターの問いに答えたタルク・オウズルという専門家によれば、この戦争は既にロシアと欧米の戦いになっているという。

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当初、欧米は戦争の拡大を恐れて、射程距離の長いミサイル等の供与を躊躇っていたが、昨年の夏以降、ハイマースを始めとする最新兵器の供与に踏み切った。

これは、欧米が第三次世界大戦のリスクを承知で覚悟を決めてしまったのではないかと論じられたりしていた。

その後も、フランスやドイツには、停戦を模索する動きが見られたものの、徐々に対ロシアで結束する意志を固めてきたとタルク・オウズル氏は分析している。

オウズル氏は、ロシアと中国により国際秩序が崩壊の危機に瀕しているという認識が西欧の結束を促したと見ているようだが、おそらく、日本も同様の認識に基づいて対米従属を強化しているのではないかと思う。

西欧も日本も、戦後、米国を中心とする国際秩序の中で繁栄を謳歌して来たからだ。

特に日本は、この国際秩序が崩れ去った場合、東洋の一国として非常に厳しい立場へ置かれてしまう可能性もある。そのため、マスコミも米国のプロパガンダ機関と化して、必死に米国へ寄り添おうとしている。

米国もそれを承知で、西欧や日本に対して、「現在の国際秩序を守らなければ、貴方たちはどうなってしまうのか?」と脅しをかけてきているような気もする。

こういった情報戦・心理戦を見ると、既に第三次世界大戦は始まっていると言って良いのかもしれない。

一方、オウズル氏は、西欧の一般市民には、平和と正義のいずれを選択するかについて未だ躊躇いが見られるという。

「正義」とは国際秩序を不法に踏みにじったロシアに対する制裁に他ならないが、トルコでは、少なからぬ視聴者が、この論説に異議を唱えていたのではないかと思う。

トルコも戦後は、米国中心の国際秩序へ組み込まれて行ったけれど、西欧や日本のように繁栄することはなかった。それどころか、冷戦の終結以降、米国はあからさまにトルコの分割を試みようとしてきた。米国の「正義」など認めるわけには行かないのである。

カラー革命によって、ウクライナがロシアから引き離されたことを快く思っていないトルコ人はかなりいるだろう。2013年の「ゲズィ公園騒動」も米国から仕掛けられたカラー革命ではないかという認識があるからだ。ロシアに対して同情的な人たちは決して少なくない。

もっとも、「正義」などは建前の問題であって、実際はどちらが強いのかを検証しなければならないらしい。

そうなると、ロシアに対して欧米の有利は圧倒的であるようにも思えるが、オウズル氏も述べているように、トルコを始めとして、インドや南米各国等々も米国の一方的なやり方には不満を持ち始めている。トルコと同様、これらの国々も現在の国際秩序の受益者ではなかった。欧米がロシアを孤立させるのは非常に難しいように思える。

また、以下のYouTube動画で元軍人の評論家メテ・ヤラル氏が明らかにしたところによれば、欧米は既に在庫を全て使い果たすほどの兵器をウクライナへ供与してしまったらしい。

 この番組は、兵器の自国生産に関するトルコの取り組みを解説する趣旨で、ウクライナの話は例として挙げたに過ぎないため、ヤラル氏はウクライナへ何故それほどの兵器が供給されてしまったかについては論じていないが、結局、ウクライナにすれば自前の兵器ではなく要求次第でいくらでも供与されると思っているから、景気よくどんどん使ってしまったのかもしれない。

昨年の夏以降、ウクライナは供与されたハイマースによって東部戦線でロシアを撤退させたけれど、同時期、日本ではハイマースの弾不足により日米の共同演習が一部中止されたと報じられていた。

一方のロシアは、速やかに撤退することで被害を最小限に止め、兵力の温存に努めていた。もちろん、自前の兵器だから極力無駄遣いは避けているのだろう。

この戦争がどういう結末を迎えるのか未だ解らないが、人的な被害も含め、全ての面で最も大きな損害を被っているのはウクライナに他ならない。

トルコを始めとする各国が協力し合って、なんとか停戦への道筋がつかないものかと思う。