メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

「7月15日のクーデター事件」~イスタンブール運河プロジェクト

あの忌まわしい「7月15日のクーデター事件」から今日で5年を迎えた。

思えば、2013年6月1日の「ゲズィ公園騒動」以来、トルコは激動の日々を送ってきた。そのクライマックスが2016年7月15日のクーデター事件だったのではないかと思う。

クーデター事件を乗り越えると、トルコは徐々に安定を取り戻し、最近は多少余裕が感じられるようになった。

いよいよ着工した「イスタンブール運河」もその余裕の表れであるかもしれない。

イスタンブール運河は、ボスポラス海峡に平行してマルマラ海黒海を結ぶ運河であり、全長は45㎞になるという。

政府は「熱狂的なプロジェクト」などと喧伝し、如何にも壮大な計画であるかのように謳っているけれど、全長193㎞に及ぶスエズ運河と比べたら、随分かわいらしいプロジェクトのように思えてしまう。

そもそも、このプロジェクトが立案されたのは1990年まで遡るらしい。その後、94年には故ビュレント・エジェビット元首相の率いたDSP(民主左派党)が選挙の宣伝材料に加えていたそうだが、結局、99年に成立したエジェビット政権でプロジェクトは実現されなかった。

先日、YouTubeから視聴したプロジェクトの是非を巡るトルコの討論番組では、当時の実現に至らなかった要因等が述べられていたけれど、その中には「国土防衛における不安」も挙げられていたと言うので驚いた。

つまり、イスタンブールの西側のトラキア地方に敵軍が侵入して来た場合、迎え撃つ部隊は運河を渡って前進しなければならなくなり、起動に問題が生じるため、トラキア地方に部隊を増設する必要がある・・・。

これは、私たちが見たら何だか過剰な国防議論のように感じられる。しかし、1923年の建国以来、トルコ共和国は常に分割の危機にさらされて来たと言っても過言ではないかもしれない。国防はいつでも人々の意識の中に存在しているのだろう。

一方、討論番組に出演していたマースム・テュルケル氏は、自身が2002年にエジェビット内閣の経済担当相であった経緯もあり、プロジェクトの来歴を熟知しているので、プロジェクトを我が物のように語るエルドアン大統領を多少揶揄するかの如く以下のように語っていた。

トルコ共和国では、今まで一人の政治家が自分の考えで大きなプロジェクトを立案・成立させたことなど一度もない。プロジェクトはまず専門家が計画して立案され、それを時々の政治家たちが取り上げて議題に上げるのである・・・。

余談だが、マースム・テュルケル氏は南東部マルディン県の出身で母語アラビア語だったそうだ。

そのため、学生時代に担当教授から「君の論文は良く出来ているが、何故こんなにアラビア語由来の単語を多用するのか?」と問われた話を経済担当相在任当時に披露していた。

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