メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

日本の森叩きとトルコのエルドアン叩き

森元首相がメディアで袋叩きにされる発端となった「女性がたくさんいる理事会は時間がかかる」という発言は、そもそも他の人の発言を森元首相が談話の中で引用しただけであるという。

そんな「フェイクニュース」と言える代物で袋叩きにされたのでは堪ったものではないが、森氏のような地位にいる人は常にそういった中傷の対象にされやすい。

袋叩きにしている人たちは、それでフラストレーションを解消しているかのようだ。そこには「権力を恐れずに批判する高揚感」が潜んでいるかもしれない。人々はそれで正義を履行した気分になってしまうのだろうか?

しかし、実際のところ、日本では森氏を中傷したり批判したりした人たちに災いが及ぶことはない。かえって森氏を擁護した人がメディアで叩かれている。メディアも強力な権力機構になっているような気がする。

そのため、「空気の読める」タレントさんやスポーツ選手も素早く森叩きに同調しているのかもしれない。

トルコでは、エルドアン大統領に対する中傷や批判が激しいけれど、これも左派メディアや映画産業のような特定の業界に身を置く人たちにとっては、かえって安全で気楽な処世になっていたのではないかと思う。

往年の名女優であり、そのモダンで西欧的な佇まいから、左派・政教分離主義者の間でも、非常に慕われていたヒュリヤ・コチイイト氏は、事ある毎に、エルドアン大統領への強い支持を明らかにしていたが、エルドアン支持派の友人は、「でも、ヒュリヤさんはもう引退していて、仕事の有無を心配しなくても良い人だからなあ」とぼやいていた。現役であれば、業界から干されてしまっただろうと言うのである。

2019年には、国際的な名声のあるピアニストのファズル・サイ氏がコンサートにエルドアン大統領を招待して、左派メディアから「裏切者」と詰られていた。しかし、サイ氏は国際的なクラシック音楽の世界で活躍している人だから、やはりトルコのメディアでいくら叩かれても困ることはなかっただろう。

もっとも、大衆芸能はエルドアン支持派の多い分野なので、性転換した歌手のビュレント・エルソイ氏がエルドアン大統領を支持しても問題にはならないようだ。