メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

北キプロスの大統領選挙

一昨日(10月18日)行われた北キプロス共和国の大統領選挙で、現職のムスタファ・アクンジュ氏が敗北し、エルシン・タタル氏が新大統領に選出された。

南キプロス(国際的に承認されているキプロス共和国)との再統合を目指していたアクンジュ氏が、独立派のタタル氏に敗れたことで、再統合の可能性は極めて弱くなっただろう。それどころか、トルコとの統合が取り沙汰されるようになるかもしれない。もっとも、票差は拮抗していたから、直ぐに大きな動きがあるとも思えないが・・・。

トルコのエルドアン大統領は、タタル氏の勝利に喜び、早速、電話で祝福のメッセージを伝えたという。しかし、そのエルドアン大統領は、2003年、首相に就任すると、トルコのEU加盟を積極的に推進し、2004年にキプロス共和国(南)のEU加盟が決まった際には、北キプロスも合わせた南北統合による加盟を支持する立場にいたはずである。

しかし、南北統合の是非を決める国民投票は、北キプロスで賛成が上回ったものの、南で反対が多数となったため否決されてしまう。それでも、少なくとも2012年ぐらいまで、エルドアン首相は南北の再統合支持を続けていたのではないかと思う。

現在、トルコの軍は「我々が血の代償で得た北キプロス」とまで言うのだから、1974年の軍事進攻で独立させた北キプロスが南側に再統合されることには断固反対するだろう。そして、エルドアン大統領の主張も今や軍と全く変わらないものになっている。

これでは、以前のエルドアン首相と現エルドアン大統領のどちらが本当のエルドアン氏なのか考えなければならないような気もする。

エルドアン氏は、学生時代に故ネジメッティン・エルバカン元首相の率いる「ミッリ・ギョルシュ(国民の思想)」で政治活動を始めている。故エルバカン氏は、1974年の軍事進攻当時の連立政権で副首相を務めており、軍事進攻に政治的な決断を下したのは「エジェビット首相ではなく自分である」と自ら語っていた。

こうして見ると、「ミッリ・ギョルシュ(国民の思想)」のエルドアン氏は、もともと現在のようなナショナリストであり、現実的な思考から柔軟な政治姿勢を取っていただけなのかもしれない。

エルドアン氏を「イデオロギーがなく、現実に合わせて立場を変えるリアリスト」と批判する人たちもいるけれど、2003年の米国によるイラク侵攻を前にして、野党CHP党首のバイカル氏と密かに話し合ったうえで参戦を回避していたのだとしたら、ナショナリストとして終始一貫していたように見える。

いずれにせよ、現在のトルコは、欧米に対して「国益を最後まで主張する」という立場で、政府と軍が一致しているのではないかと思う。

独裁者とか言ってエルドアン大統領ばかり叩いたところで何も変わらない。欧米にとっても、柔軟なエルドアン大統領は、かえって望ましい対話者であるかもしれない。

少なくとも、トルコでエルドアン大統領がバランスを保つ最も重要な役割を果たしているのは確かであるような気がする。