メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

音響エンジニアの仕事

日本では、「とにかく大学に受かってしまえば卒業するのは楽だ」なんて言われていたけれど、トルコでも同じような傾向があったのではないかと思う。

それどころか、法学部を卒業するだけで弁護士の資格は得られたから、三流大学の法学部でも、入学さえ果たせば、後は司法試験といったハードルもなく、卒業して弁護士になれたようである。

もちろん、実力がなければ、弁護士として活動して行くのは難しかったかもしれないが、何処かの会社で法律顧問といった職に有りついて、定年まで過ごした人は少なくなかっただろう。

クズルック村の工場で総務部長を務めていたトルコ人の方もそんな感じだった。日本人出向者の皆さんは、「弁護士」という肩書に敬意を表していたものの、トルコ人の社員からは余り相手にもされていなかった。

エンジニアにしたって、そういう肩書だけのエンジニアは結構いたはずである。

2010年、トルコの地中海地方にある国立の劇場で、日本の劇団が公演した際、劇場の「音響エンジニア」という肩書の責任者から、「日本の劇団の音響担当者に訊きたいことがある」と頼まれた。

なんでも、劇場の音響機器の一つが故障して音が出なくなっているものの、原因が解らず、「イスタンブールの代理店に来てもらおうかと思っていたが、日本人の音響担当者なら直せるかもしれないので一つお願いしたい」と言うのである。

劇団の音響担当者にどういう肩書があったのかは解らない。おそらく、もともと演劇関係の仕事をしていた人で、音響の技術もそこで実地に習得しただけではなかっただろうか。

彼は、音が出ない原因を探るため、正常に音の出る音響機器に接続されている付属機器の一つを外して、代わりに問題の音響機器に接続されていた付属機器を取り付け、一つずつ確認して行ったところ、4つ目ぐらいで音が出なくなり、その付属機器が原因であると明らかになった。それで、音響エンジニアに「これのスペアはありませんか?」と尋ね、スペアと交換しただけで修理は完了してしまった。僅か10分ぐらいの出来事だった。

そういう原因究明の手順なら、私も中学校の技術で習ったような記憶がある。「音響エンジニア」は、いったい何を調べていたのだろう? イスタンブールの代理店に来てもらっていたら、相当な費用を支払わなければならなかったに違いない。

温厚な好人物ではあったけれど、年齢は30代半ばで、多分、大学を出てから10年ぐらい、劇場の「音響エンジニア」として働いていたのではないか。

さすがに、民間の企業であれば、そこまで甘くなかったと思うが、国立の劇場だから、彼の身分はトルコの国家公務員であり、ほぼ終身雇用が保証されていたのである。あれはもう「給料泥棒」、あるいは「税金泥棒」と言っても悪くないような気がした。