メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

韓国はハイテクに強いが、ローテクはそれほどでもない?

韓国は半導体などハイテクの分野で目覚ましい飛躍を遂げたが、ローテクの方はそうでもなかったと言われている。

私にはそういった技術関連の問題が皆目解らないけれど、12年前に見聞した出来事は、それと少し関わりがあるような気もするので、ここに記してみたいと思う。もっとも、たった一つの例であり、当時の一般的な傾向とは無縁だったかもしれないし、12年前と今日では大分状況も変わっているだろう。

2005年頃から2008年にかけて、トルコのイズミル地方にある印刷工場へ、通訳業務で何度か出かけたことがある。工場では、全長10メートル以上の大きな輪転機が数台稼働しており、2008年まではその全てが日本製だった。

ところが、2008年になって、韓国製の輪転機が初めて導入されることになったものの、韓国語通訳の手配が間に合わず、また私が駆り出されることになった。駆動を調整する機器は日本製が取り付けられるため、その日本の企業の人も来る予定になっていたから、とりあえず私を呼んだのかもしれない。

韓国語は大分忘れてしまっていたので、不安に思いながら出かけたところ、輪転機の施工に来ていた韓国企業の社長さんは、日本語がかなり出来る方で、何とか業務を進めることができた。社長さんは、輪転機に関するノウハウを日本の企業から学んだと言い、技術的な説明に用いる日本語はほぼ完璧に近かった。

しかし、いざ輪転機の施工が完了して、テスト運転を試みると、12色刷りの印刷物は各々の色がずれ込んでいて全く使い物にならない状態だった。どうやら、輪転機が印刷用紙を真っ直ぐに送り込めていないらしい。

駆動を調整する日本製機器は、送り込まれる印刷用紙が多少ずれても修正するそうだが、トレランスを大きく外しているため、修正出来なくなっていた。その状態で、数日が経過したものの、ずれ込んでしまう原因が何なのか韓国企業の社長さんも首を捻るばかりだった。テスト運転を何度も繰り返し、その度にデジタル表示される圧力等をチェックして、また首を捻っていた。

日本製機器の取り付けに来ていた技術者は、韓国の人たちと何度も一緒に仕事をしたことがあると言い、韓国語で挨拶したりして和気藹々とやっていたけれど、試行錯誤が繰り返される中、「韓国の人たちは、なんでああなんだろう?」と私に囁いた。

彼は、技術者と言っても、機器の取り付けと調整を任されているだけで、輪転機についてもそれほど詳しいわけではなかったらしいが、韓国の人たちがデジタル表示される数値ばかりを気にしているのが解せないと言うのである。

「原因は未だ解らないので、ひょっとすると、うちの機器に問題があるかもしれない。だとすれば、うちの機器のデジタル表示をチェックしても意味ないじゃありませんか? うちを信用してくれるのは結構だけれど、もっと機械の施工具合などを見た方が良いように思えるんですが・・・」

その技術者によれば、現場を重視しない韓国のローテクはそれほどでもない、ハイテクが強いのは、ハイテクの場合、優秀なエンジニアがいれば、それだけで成果が出るからではないかという見解だった。

さて、この不具合の顛末だけれど、結局、業を煮やしたトルコ側の社長が、懇意にしていた日本のエンジニアをわざわざ日本から呼び寄せたところ、その日の内に原因は明らかになってしまった。

エンジニアは機械に手を触れながら、暫く施工具合を見ていたが、原因を見極めると、皆を隣の日本製輪転機の所へ連れて行き、左右に何本も並んでいるローラーを同時に勢いよく回して見せた。印刷用紙を送り込むうえで、補助的な役割を果たしているローラーは、左右で数本ずつ勢いよく回り出し、次第に回転が遅くなって、その全てがほぼ同時に停止した。

それから、韓国製の輪転機へ戻り、同じ所作を試みたところ、ローラーの停止時間が一つも揃わないことが明らかになったのである。

「これはローラーのベアリングがいかれているんですね。これさえ直せば、輪転機自体は何とか機能するのではないかと思います。」

このため、ローラーを韓国で作り直すことになり、2~3週間後に新しいローラーを取り付けて、再びテスト運転に臨んだ。

しかし、結果はかなり良くなっていたものの、微妙なずれがあって、印刷物は製品として使い物にならないという。これに対して、韓国の社長さんは、「輪転機自体の不具合はなくなったが、日本製機器に問題がある」と言い、日本製機器のプログラムを開発したエンジニアを日本から呼んでくれと懇願した。そして、日本からエンジニアがやって来ると、問題は立ちどころに解決したけれど、これにはとんでもない落ちがついていた。

日本からやって来たエンジニアの作業は、ものの5分と掛かっていなかった。パソコンで何やら調整しただけである。何を調整したのかは、その翌日だったか、イズミルの空港で韓国の社長さん自身が明らかにしてくれた。

「日本製の機器は、一定のトレランス内であれば修正できるようにプログラムされているんですよ。輪転機はローラーを直して大分良くなっていたが、まだトレランス以上にずれていたんですね。でも、うちは日本の会社にとって一応顧客だから、『もう少しトレランスの幅を大きくしてもらえませんか?』と頼めばやってくれます。だからと言ってトルコ側に正直なところは言えないでしょう? それで、とにかく某氏に来てもらいたいと話したんですよ」

社長さんは、こう説明すると、愉快そうに「ハッハハ」と笑った。私は通訳としてトルコ側に雇われていた人間である。後でトルコ側にこの話をばらしたりしないかと心配しなかったのだろうか? 

「世界で最もスパイに適していないのは韓国人。何故なら秘密保持が出来ないから」なんて良く言われているけれど、私は社長さんの大らかな人柄に唖然とするばかりだった。

merhaba-ajansi.hatenablog.com