メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

産廃屋の思い出/(4)倒産業者

《2008年7月の記事を書き直して再録》

私たちが住んでいたプレハブの前はダンプの駐車場と産廃の保管地になっていて、対価を払って廃棄物を投棄する外来の業者もいた。

ある時、そんな業者の一つが定期的に廃棄物を投棄したあげく、支払を滞納したまま倒産してしまい、社長がダンプ2台と私を含む6~7人の従業員を引き連れてその業者の所へ乗り込んだ。

今考えれば、法的根拠のない犯罪のような行為かもしれないけれど、滞納した分を現物で取り上げてしまおうというのである。

社長の右腕を務めていたタカスギさんという番頭格の営業社員が音頭を取って私たち運転手を集め、「おい、お前らは親爺が手を出しそうになったら皆で止めるんだぞ、解ったな」と言い含めてから出発した。

その業者は、小さな建築会社で、経営者の自宅の一部を事務所として使っているようであり、玄関のドアを叩いたところ、50歳ぐらいのインテリ風で紳士的な感じのする痩せて小柄な男性が顔を出し、「自分はここに住んでいるだけで事情が良く解らない」と弁明したけれど、一緒に来ていたダンプの配車係のヤノさんが、「社長! こいつが社長です!」と声を上げるや、後は皆でその男性を押し込むようにして事務所の中へ入り、瞬く間に男性を取り囲んでしまった。

事務所には、製図用の机がいくつかあり、壁には『今日も明るく頑張りましょう!』みたいな標語が掲げられていたものの、荒くれ者たちに取り囲まれて脅えている男性と見比べると、妙に白々しく、殺伐とした雰囲気をかもし出す隠し味のように見えた。

私はどういう訳か、机の前に座らされた男性の真後ろに立たされ、男性の頭越しに怒気を含んで一層鋭くなった社長の顔が間近に迫って来たのを覚えている。

運転手の中にクニサダさんとノダさんはいなかったけれど、コジマさんや怪人ナカダさんのような強面連中がそろっていたから、その光景はなかなか迫力満点だった。

手こそ出さなかったものの、社長が机に蹴りを入れたりしながら怒鳴り声を上げる度に、男性は身を強張らせて後ろに反らせるので、真後ろからそれを見ている私は、どうにも変な気がした。

結局、無理やり誓約書みたいなものを書かして捺印させると、タカスギさんの指示で事務所にあった製図用具やら何やら一切合財をダンプに積んで引き上げ、それを全てプレハブの一階事務所の隣にあった空き室へ収めた。

この出来事から、どのくらい経った後なのか、ある日の昼頃に現場から戻ってプレハブの前でダンプのシートを外しに掛かったところ、あの男性が軽トラックで乗りつけ、空き室の荷物を運び出しているのが見える。

男性は作業が終った後、事務所の中へ入って挨拶していたようだけれど、直ぐに出て来ると、軽トラックの運転席へ乗り込む前に、四方へ向き直って深々と頭を下げたのである。

でも、男性の周りには誰もいなかったし、その行為に気がついていたのは私だけだったかもしれない。私は男性が私の方に向き直って深々と頭を下げた時、何だか決まりが悪いような心持で軽く会釈を返した。

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