メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

時間に遅れても悠然と歩いて来るネパール人就学生

30年前、韓国企業の日本支店に勤務していた頃、来日した韓国本社の一行が宿泊しているホテルのロビーで、日本の取引先の人たちと待ち合わせると、いつも本社の一行が時間になってもロビーに下りて来ないので困った。日本の人たちは、30分ぐらい前からホテルに来ているので、下手をすると1時間近く待たせてしまったりした。 

在日韓国人の支店長によると、これは私のセッティングミスであるという。つまり、本社の一行には30分早い時間を伝え、取引先には30分遅い時間を伝えておけば、双方がほぼ同じ時間に到着するはずである。「君は1年半も韓国に留学していたんじゃないのか?」と支店長は半ば呆れたように話していた。 

時間にルーズなのは、トルコでも同様だった。というより、日本ほど時間に正確な社会は他にないらしい。 

ネパール人の就学生らも、集合場所に平気で遅れて来る。そのうえ、ゆっくり歩いて来るから腹立たしい。もちろん、中には走って来る就学生もいるけれど、その殆どが悠然と歩いて来るのである。 

韓国では、雨が降って来たので走り始めたら、一緒に歩いていた友人から、「雨ぐらいで男が走ったりしたらみっともない」と注意されたこともある。李朝時代の両班という貴族階級の男たちは、ひたすら学問に励み、汗をかく労働を嫌ったという。「走る」のも労働者の行為と見做されていたかもしれない。 

カースト制でも最高位のバラモン階級は、学問だけで汗をかく仕事はしなかったらしい。おそらく時間に遅くなっても走ったりしなかったのだろう。下々の者を待たせておけば良いのである。 

しかし、西欧のホワイトカラーの人たちもやはり汗をかく作業などしないそうだが、時間には正確だから、遅れたら走って来るような気がする。それに、西欧では軍人が上流の階級に認められている。軍人が走ったり汗をかいたりするのは当たり前ではないのか? 

韓国でも、軍人出身の全斗煥大統領は、視察先などで先頭をきって凄い早さで歩き、「あれは下賤の者だから・・・」なんて言われたりした。上流の人は、いつでも悠然とゆっくり歩いていたらしい。 

そういう感覚は、西欧にも日本にもなかっただろう。日本の侍は汗をかく武芸に励んでいたくらいだから、いざとなれば走るのも厭わなかったに違いない。日本が明治維新でいち早く西欧化を図れたのは、この侍階級のお陰だったのではないかと思う。 

新渡戸稲造が、日本の道徳を紹介しようとして、儒教でも仏教でもなく「武士道」を著したというのは、日本と西欧の類似点を良く見抜いていたからだろうか? まずは「武士道」の日本語訳でも読んで考えてみたい。